岐路に立つ製造業、デジタルトランスフォーメーション(DX)のカギは「設計」にある ―八子知礼×小泉耕二【第21回】

経営主導で、生産現場と設計のデータを統合すべし

小泉: 製造業においては、まずは顧客側の要望があります。そこには無理な要求も含まれるのだと思いますが、経営側は可能なら対応したいというマインドがあります。なぜなら、儲かるからです。

しかし対応するには、自社の設計から生産までのバリューチェーンを把握しておく必要があります。たとえば生産部門においては、まず「どれだけ生産能力があるのか」を把握するために、可視化ツールなどを入れるわけです。

設計部門も、CADデータなどを駆使して、自分たちが対応できる設計パターンをあらかじめ明らかにしておく必要があります。そうしておけば、社長や営業から「つくれないのか?」と尋ねられても、「〇〇を××したらつくれます」と瞬時に答えられるわけですね。

八子: たとえば、社長や営業担当の要求に対して、3DCADのデータや調達している部材の中から、製造できる膨大なパターンをシステムが打ち出します。しかし、実際には「コストが大きい」、「手戻りが発生する」、「品質のロスが後工程で発生する」といった悪い結果も想定されますから、それに対して生産現場が可能・不可能をふりわけていくわけです。

3Dプリンタなどを使えば状況も変わるのでしょうが、既存のリソースで対応しようとすると、ある程度の制約は発生します。すると、マーケットのニーズに対応できる幅がぎゅっとしぼられてしまう。儲けるチャンスが減ってしまうわけです。

ですから、あらかじめ上流の部分で、実際に生産ラインにモノを流す前にシミュレーションしておくことが重要なのです。そして、生産現場で1円でも無駄にしないようにと必死に行っている現状の努力を、もっと設計のプロセスでも行っていく必要があると思います。日本に限らず、世界においても設計のプロセスはまだまだ改善できる余地があります。

―八子知礼×小泉耕二【第21回】
株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

小泉: 世界のさまざまな事例を見ていると、3DCADのデータを使って設計のシミュレーションを行うソフトウェアや、3Dスキャナを使って現場のレイアウトをシミュレーションするツールなど、川上から川下まで手段はそろってきている印象はあるのですが、実際はうまくいかないのでしょうか。

八子: それらを使いこなすには、データが必要です。たとえば、調達する部品や素材のデータ、あるいはどの設備でどうやって加工するかといった生産現場のデータ。それらのデータを持っていないとシミュレーションはできない。

「そんなことは今までも散々やってきた」と思う人もいると思います。しかし問題は、それらのデータが生産部門と設計部門で別々に利用されていることにあるのです。設計の段階で問題はなくても、実際に生産工程に流すと加工などが難しいことがあります。

そういう場合、現場は「工夫」によって何とか対応しようとするのです。これでは、それぞれのデータを一体化してシミュレーションなどできません。これは、製造業に限った話ではないと思います。たとえば建築の分野においても、建物を立てて、運用側の業者に引き渡してしまったら、その建物のデータは運用のシミュレーションに使われないわけです。

設計と製造、そしてその先の出荷・オペレーションのプロセス、大まかにこの3つのプロセスが三位一体となっていないと、ビジネスモデルは変わりません。そのことを、それぞれの部門にいる人はあまりわかっていない。

小泉: 色々なところで話を聞いてみると、こんなことがあります。設計の担当者は、自分たちの役目をしっかり果たせば、あとは製造が何とかつくってくれると思っている。それなのに、今度は一緒になって考えようと言われると、前より手間が増えて面倒くさいと思う人もいると。おそらく、ソフトウェアが充実していても、そのあたりの意識が変わらないとだめなのでしょう。

しかしここで初めて、経営側の出番になりますよね。製品をどのように設計し、どのように生産していくか。これは従来、それぞれの部門が縦割りで行っていたわけですね。しかしこれを経営主導で一体となってやらないと、お客のニーズに対応していけない、ということですよね。

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