産業横断型ソリューション、成功の秘訣
ここで鳥巣氏は、「データエコシステム」について世界で起きている潮流について説明。その1つは、「産業特化型」のIoTソリューションが増えてきているという実態だ。

鳥巣氏は、本年3月から5月にかけて行った「IoTデータエコシステムに関わる取材記録」をもとに、産業特化型ソリューションにおける8つの先進事例を紹介した。
たとえば、医療分野における富士通・サンスター・歯科医院の取り組み。基盤となるのは、富士通がクラウド上に持つ患者のレントゲンのデータや診断データなどの「非IoTデータ」だ。
そこに、サンスターが開発した「IoT歯ブラシ」から収集した「IoTデータ」を組み合わせ、歯科医院とも連携する。そうすることで、患者はいつでもどこでも(家でも歯科でも)”虫歯にならないためのサービス”をシームレスに享受できるのだ。
次に鳥巣氏は、土木建築業におけるランドログ(コマツ・NTTドコモ・SAP・オプティムの合弁会社)の事例を紹介。3つの成功ポイントがあるとして、解説した。
ポイントの1つ目は、「収益拡大」より「スケール拡大」を優先させていることだという。
コマツと言えば、建設機械メーカーである。しかしコマツらがつくったIoTプラットフォーム「LANDLOG」は、他メーカーの建機のデータやドローン、作業員など土木建築業に関わるすべてのデータを収集。さらにその基盤をオープンにし、第三者企業がアプリケーションを開発できる環境を構築した。
しかもその利用料は月額数千円レベルだ。建設業は中小規模の企業が多いため、リーズナブルな価格帯が重要である点も考慮されている。目先の収益よりもパートナーシップの拡大を優先し、ビジネスをスケールさせている点が特徴だ。
2つ目は、物理世界/ヒトへのフィードバックを重視している点だ。たとえばLANDLOGでは、作業現場に設置したカメラの画像分析を通じて、各作業員の作業を管理・改善している。いわば「働き方改革」の側面を重視しているのだ。
そして3つ目は、土木建築という一つの産業の「全体最適」を実現している点だ。土木建築業の1プロセスである「施工」には、「掘削→積み込→運土→盛り土→法面→舗装」といった一連のバリューチェンがある。
建機の性能を向上すれば、「盛り土」の生産性は改善される。しかしダンプの数が不足していれば、その前工程である「運土」がボトルネックとなり、全体の生産性は向上しない。
そこでコマツは、自社の建機の性能を向上させるだけではなく、土木建築に関わる”全てのデータ”(IoTデータ+非IoTデータ)を収集することで、バリューチェーンに潜むボトルネックを解消し、産業全体の最適化を目指しているのだ。
「この3つのポイントはあらゆる産業で応用できる」と鳥巣氏は述べた。さらに、こうした全体最適をもたらす産業特化型のソリューションは、サプライチェーンのデータと組み合わさることで「産業横断型」のソリューションへと進化し、大きな価値を生み出していく可能性がある。
たとえばさきほど、LANDLOGでは建設現場の情報をカメラで取得していると述べたが、その画像からは「現場の作業員がランチの時にどのようなお弁当を食べているかといったデータを得ることが可能。そのデータを現場周辺の食品小売業のサプライチェーンに接続すれば、食品の製造量の最適化や物流の最適化にもつなげられる」(鳥巣氏)。