昨今金融サービスもデジタル化されていたり、暗号資産取引などデジタルありきでの金融サービスも始まっている。そこで、経済アナリストの馬渕磨理子氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が、「デジタルと金融」についてと対談した。
特集「デジタルと金融」は全四回で、今回は最終回、「新しい資金調達」がテーマだ。
馬渕磨理子氏は、京都大学公共政策大学院修士課程修了。トレーダーとして法人の資産運用に携わった後、金融メディアのシニアアナリスト、株式投資型のクラウドファンディングを手掛けるFUNDINNO(ファンディーノ)で、日本初のECF(投資型クラウドファンディング)アナリストとして政策提言に関わる。現在は、一般社団法人 日本金融経済研究所の代表理事。フジテレビのニュース番組「FNN Live News α」のレギュラーコメンテーターなども務める。
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 次のテーマは「新しい資金調達」についてです。「FUNDINNO」という資金調達が行えるサービスを、馬渕さんが勤めている会社で提供されていますが、どのようなサービスなのですか?
経済アナリスト 馬渕磨理子氏(以下、馬渕): 「FUNDINNO」は、人の想(おも)いを感じることのできる心が通った金融サービスだと思っています。投資先は、これから成長していきたいと考えているが、なかなか資金が集まらない未上場のベンチャー企業になります。
[wpmem_logged_out] つづきは、無料メルマガ会員になると読めます! [/wpmem_logged_out] [wpmem_logged_in]株購入でベンチャーを応援する「FUNDINNO」
馬渕: 投資家は10万円前後という少額からネットで投資ができます。ベンチャー投資というと、投資額は数百万から数千万円というイメージがありますが、「FUNDINNO」であれば、個人でも株主としてベンチャー企業を応援することができます。

説明すると、ベンチャー企業は事業内容や、どのような想(おも)いで事業に取り組んでいるのかを「FUNDINNO」で発表します。その想いに賛同した投資家が投資することで、トータルで3500万円程度の資金を集めることができます。
小泉: 方式としては、クラウドファンディングと同じなのですか?
馬渕: 方式は同じですが、クラウドファンディングは「購入型」で、モノやサービスを購入することで企業を応援します。一方、「FUNDINNO」は、「株を購入する」ということで、企業を株主として応援をするわけです。企業を長い目で見た投資を行うことが可能で、長期的なサポートを目的としています。
小泉: 具体的には、企業の株の一部を「FUNDINNO」が保有していて、それを投資家に対してデータ上で分配しているということですか。
馬渕: 「FUNDINNO」が提供しているのはプラットフォームのみです。株については全く関与していません。また、企業に投資も行いません。
小泉: そうなると、10万円程度の投資をした人でも、何パーセントの株を保有しているのかが企業の書類上に残るのですか?
馬渕: 議決権を行使できない程度のパーセンテージの株が放出され、それを数百人の投資家が買っています。だから、「支配権」という考え方はありません。「何パーセントの株を保有しているから支配権が、どれくらいある」という株式投資の発想ではなく、「応援をする」というクラウドファンディングの発想に近いものです。

小泉: 「FUNDINNO」で投資をしている人は、何パーセントの株を保有しているかは把握していないわけですか。
馬渕: 株式の保有パーセントは把握していません。ただ、企業の価値が上がれば保有している株の価値も上がります。投資するのは未上場企業ですが、投資家に対するメッセージとしてIR情報を提示しています。
小泉: 「FUNDINNO」に掲載するための審査などはありますか?
馬渕: 未上場の企業のため、しっかりと審査を行っています。金融庁が定める項目も全てチェックしています。7人程度の公認会計士が、成長性や所在地、通帳の突合など様々な観点から審査をしています。
審査の後には、役員会議にあげられ、役員全員が合意しなければ掲載の許可は通りません。応募に対して通過率は5%程度なので、審査は厳しいです。
小泉: 応募してくる企業は多いのですか?
馬渕: ネット上からの応募があったり、紹介もあったりするので、活用したいというニーズは多いです。ただし、通過は5%程度です。そのため、「FUNDINNO」に一度応募して通過できかった企業が、3年ほどかけてブラッシュアップをして事業を成長させ、もう一度挑戦して通過したというケースもあります。
小泉: まるで上場審査のようですね。
馬渕: そうです。上場審査ほど厳しくはありませんが、しっかりと審査が行われています。そして、ゆくゆくは、M&A(合併・買収)やIPO(新規株式公開)を目指してイグジットしていく企業も多いです。
小泉: 「FUNDINNO」を活用している企業はどのような業界が多いのですか?
馬渕: 資金が集まりやすいのは、ヘルステックやDX関連などの株式市場のテーマとなっている企業です。しかし、株式市場のテーマだけを扱うのは「FUNDINNO」の世界観とは異なるので、要素技術関連やアパレル、農業など、幅広い業界の企業が集まっています。
小泉: 投資家の最終的なメリットはどこにあるのでしょう。
馬渕: M&AやIPOで大きなリターンを得るというゴールがひとつあります。しかし、それだけを目的に投資している人は、「FUNDINNO」にはほとんどいません。
投資家にとってベンチャー企業の経営者は、上場企業の経営者と比べると距離が近いのが特徴です。場合によっては直接コミュニケーションをとって、投資家が経営者にナレッジの共有をしたり、実際にサービスを導入したり、知り合いを紹介したりしています。文字通り「応援」しているのです。

小泉: 初期のベンチャーにとっては有り難いですね。
馬渕: 「FUNDINNO」というプラットフォームを通じて、そうしたサポートが自然発生的に行われ、新たな経済圏を生んでいます。
小泉: 投資家としても少額から投資できれば参加をしやすいですし、自分では実現が難しい夢の応援ができるのはよいことですね。
馬渕: 自分ではできなかったことやできないことを、頑張っている人に託すということができます。資金がある投資家の中には、少額からスタートして、その後、企業との直接やりとりを通じて大型投資を行う人もいます。
「FUNDINNO」は、投資後の企業とのやりとりには関与はしていないけれど、誰でも応援したい企業に投資を行えるようにプラットフォームを提供しているわけです。
事業転換で資金調達に成功した町工場
小泉: 未上場企業のベンチャーの資金調達は、ベンチャーキャピタルからの投資が一般的です。そういう意味で「FUNDINNO」はよいきっかけになりますね。
馬渕: 個人投資家が、個人で投資先を見極めるのは難しいものがあります。また、クラウドファンディングは多くの投資家が賛同しなければ成立しません。しかし、「FUNDINNO」は2段階での審査を通過した企業と出会うことができるので、投資しやすい環境が整っていると思います。
小泉: 「FUNDINNO」で購入した株を売ることはできるのですか?
馬渕: 以前は売買ができず課題となっていました。そこで、「FUNDINNO MARKET」というセカンダリの流通市場を作りました。ここでは「FUNDINNO」で購入した株を相対で売買することができます。

「FUNDINNO」としても、流通マーケットがあることで信頼性が上がるので、4年ほどかけて免許を取得したようです。
小泉: とても可能性を感じるサービスですね。私も自分で長年、会社を経営して、自身の知見をコンサルティングで共有していますが、知見を生かした事業を行いたいと考えています。
しかし、実際に事業を行うための人材などのリソースがなく、なかなか実現するのは難しいのが実情です。そうした人は、「FUNDINNO」を活用してベンチャー企業を応援することで、楽しい余生を過ごせそうな気がします。
今まではベンチャー企業などを応援したいと思っていても、知り合うきっかけがなかなかありませんでした。スタートアップ企業に関連するイベントは、確かにたくさんありますが、数が多すぎて、それこそ、どの企業がよいかを個人では判別できません。
投資をするなら地道にがんばっている中小企業の描いている未来に共感し、実際の事業の内容を把握した上で行いたいので、「FUNDINNO」はとてもよいサービスだと感じました。
馬渕: 「FUNDINNO」では、「スタートアップ」という言葉をあまり使わず、「ベンチャー」と言っています。それは、投資先の企業に中小企業も含んでいるからです。
その中には、第二創業した中小企業の成功事例もあります。もともとラジコンカーのタイヤ製作を行っていた「寿技研」という町工場は、受け継いだ息子さんが、第二創業して事業をピボットし、こんにゃく模擬臓器を開発しました。

医師が手術の練習をする際、これまでは豚の臓器を使っており、問題となっていました。そこで、寿技研は、臓器と同等の切り味などを再現したこんにゃく模擬臓器を開発したのです。
これはSDGsの観点からも有意義な製品で「FUNDINNO」での資金調達にも成功しました。そして、その資金調達の成功が話題となり、様々なメディアに露出し、若い世代の人たちがそれを見たことで、人材獲得にもつながったそうです。このように、町工場が新しい技術や製品を展開し、新たな人材を獲得できれば、さらなる事業を展開することができるわけです。
これが、「FUNDINNO」が目指す代表的な事例です。ここには「何億、何十億の資金調達するスタートアップが必ずしも全てではない」という考え方があります。これは、中小企業が成長していく形を目指している世界です。
だから、M&AやIPOを目的としていない企業も扱っています。つまり、「存続すること」を目標としているのです。ここにも資金が集まっています。投資家もイグジットを目標にしていないのです。
小泉: 参加することに意義があると感じているということですね。
馬渕: その通りです。これが実現できたのも、「FUNDINNO」の世界観を理解してくれる投資家が集まったからで、持続可能な社会や企業を支える仕組みだと思っています。
正しい情報発信者を見つけ自身の見識を持つ
小泉: 最後のテーマは「デジタルと金融の未来」についてです。私は、今回の話を通じて、デジタルと金融は近いようで遠いと感じました。馬渕さんはいかがですか?
馬渕: 私も共通点がすごくあると思っていたのですが、遠さも感じました。
小泉: 金融ツールで活用されるデジタルは一体化して動きますが、デジタルと金融が一体化することはなさそうだということですよね。
金融市場とデジタル業界が見ている世界観には、時間差がどうしても発生してしまう。

金融市場からすると、技術やサービスが成熟したときには終わっているわけですから。そうなると「デジタルと金融の未来はこうだ」という話はしづらくなります。
馬渕: 確かにそうです。ただ、そうはいっても共通点もあると思います。それは「金融もデジタルも、話題になっているうちは本物ではない」ということです。利用者にとって、有り難みが分からなくなるほど当たり前になることが、両者の目指す姿だと思っています。
小泉: ただ、細かなテーマを追いづらいという課題もありますよね。それは、金融市場が大きなトレンドに反応するのは分かったけれども、コモディティの中での細かな技術革新にも気づいてもらえているのかという点です。
例えば、スマートフォンには、様々な技術が集約されて高度な処理が行われており、日々技術革新が起きています。そうした技術を開発している企業の株価が上がっているのかが気になるのですが、どのような状況なのでしょうか?
馬渕: ほとんど気づけていないと思います。そこで重要になってくるのが「情報」です。私も小泉さんも、なぜ情報発信に携わっているのかというと、届いていない情報を届けたいからですよね。多くの人が気づいていない企業の考え方や取り組み、デジタル技術を一次情報として取ってきて発信する。この動機と行為はとても似ていると思います。
小泉: つまりデジタルと金融の未来を知るには、「自分にとって正しい情報発信者を見つけた方がよい。そして自分の知見や考えをまとめたり、波の兆しを見つけたりする」ということですかね。
情報の歴史をたどると、マスメディアに情報が一極集中だった時代から、IT産業が普及したことで、個人が必要な情報をすぐに得られるようになりました。しかし、今度は情報過多になり、自分にとって必要な情報がどれなのかを選べない状況になっています。
仕方がないので知り合いに聞いた情報を信じたり、Twitter(ツイッター)などでの確からしいつぶやきをチェックしたりという流れに変化しています。この状況からもう一段踏み込んで、人単位でもいいので、信頼できる情報網を構築する必要があるのかもしれません。
馬渕: 私も様々な専門家の意見をウォッチしていますが、あえて対局の意見を持っている人をフォローしています。違う立場や業界の人の意見を並べ、「違う」という事実をまずは知ることが大切だと思います。

例えば、為替相場に関しても、「円安になる」「円高になる」と様々な意見や理論があります。そこで、両方の意見や理論を理解した上で、自分の意見を持つことが重要なのです。また、発信者がどこに所属していて、どういった考えで話しているのかを把握した上で、情報を適切に解釈する必要があります。
小泉: 同じことを論じていても、立ち位置によって意見は変わりますからね。
馬渕: そうです。立ち位置によって意見が違うという事実があるわけです。
小泉: まとめると、自分の立ち位置を考え、しかるべき人をフォローするが、その情報を鵜呑(うの)みにはせず、情報を戦わせながら、最終的に自分の見識を持つということですね。私も、少しでも役立つ情報を今後も発信していこうと思います。今回は貴重なお話をありがとうございました。(終わり)