「空間転送」でひろがる5G時代の可能性 ―八子知礼×小泉耕二【第24回】

エッジとクラウドの境い目がなくなる時代へ

小泉: 他にはどんな可能性があるでしょうか。

八子: 5Gの特徴そのものというより、それによって「通信の遅延をあまり意識しなくてもよい」環境がつくられていくとするならば、その際は「エッジコンピューティング」が重要になってくるでしょう。

小泉: エッジコンピューティングの重要性についても、八子さんは年始のセミナーで言及されていましたね(記事はこちら)。今年は「エッジ・インテリジェンス元年」であると。それが、5Gとはどのように関係してくるのでしょうか。

八子: これまでは、クラウドにすべてのデータを上げてしまうことはできないので、エッジでの処理が重要だと言われてきました。なぜなら、クラウドを使う場合には、どうしても通信の遅延性やデータの容量が問題になるからです。しかし、それが5Gによって解消されるのなら、「クラウドか、エッジか」という議論をそもそもする必要がなくなるわけです。

小泉: 確かにそうですね。

八子: ですから、目的によって柔軟に使い分けられるようになるわけです。たとえば、「データのプライバシーを重視する」あるいは「データが大量なので、クラウドに上げられない」ということであれば、エッジでやればいいでしょう。

そして、エッジで統計処理されたデータだけを、リアルタイムにクラウドに上げていけばよいのです。あるいは、リアルタイムではなく過去3年分の大量のデータからあるパターンを抽出するということであれば、クラウドに投げてしまうのもありです。

すなわち、5G時代のコンピューティングモデルは、エッジを活かすことがカギになるわけです。なおかつ、エッジ側・クラウド側のどちらで処理しても違いの発生しないようなモデルをいかにつくるのかに尽きると思います。

小泉: 自動運転車の例でいうと、車は、自ら運転しながら(センサーやカメラを使って)集めているデータが山ほどあります。そしてそのデータの多くは、運転を行うための演算に用います。一方、そのデータは運転するためだけではなく、交通状況などのデータとして、クラウド経由で他の車に伝えるという場合もあります。あるいは、クラウドを経由せず車から車へと直接通信を行う「V2V(Vehicle-to-Vehicle)」の場合もあります。

こうした場合に、5Gとエッジコンピューティングの技術により、目的に応じて色々な経路を使って通信ができるようになるということですね。

八子: そういうことになります。

5Gの可能性、普及のカギは「空間転送」と「エッジコンピューティング」 ―八子知礼×小泉耕二【第24回】

小泉: 5Gについて色々な方と話していると、高速通信や低遅延、同時多接続といった5Gの特徴を自分たちのビジネスや技術にとりこむイメージがわきづらいという方が多いです。確かに、インターネットが登場するまでは、ここまで便利だとは思っていなかったのと同じで、5Gも実際に登場しないと便利さが追求できないのではないかと思う気持ちもあります。それについてはどう思いますか?

八子: モバイル通信については、2Gから3G、3Gから4G、4Gから5Gになっているという歴史的な経緯があります。1月のセミナーでもお話しましたが、2Gから3Gでは、単純に通信速度が上がり、帯域が大容量になりました。3Gから4Gでは、時系列の方向に情報が拡張されました。たとえば、2次元の画像が時系列にひっぱられる(拡張される)ことで、動画になり、音声は時系列に拡張されることで、電話になりました。

4Gから5Gだと、空間(奥行き方向)が拡張されます。つまり、先ほどから申し上げているように、「空間を転送」できるわけです。5Gのアプリケーションは、こうした空間拡張と低遅延性のメリットをふんだんに活かしたアプリケーションになるはずです。

小泉: そもそも、「遠隔地にあるものを感じる」ことがわかりにくいという面はありますよね。たとえば、遠隔地から触感(モノを触ったときの感覚)が伝わるようなデバイスがあれば、わかりやすいと思います。遠くにいる犬をなでる感覚を体験できるというような。

八子: そういう意味でいうと、先ほども議論した外科手術の領域は、可能性があると思いますね。

小泉: こうして議論しながら色々とイメージしていると、何か変わってくるような気がしてきました。5Gは本当に期待されている分野です。最近は書籍や記事もたくさん出てきていますし、通信キャリアさんもこれから様々な手を打ってくることでしょう。イメージしにくい部分もあると思いますが、今回の「空間転送」などのイメージを手がかりに、ぜひ仕事や生活がどう変わっていくのかを考えていただければと思います。本日はありがとうございました。