「空間転送」でひろがる5G時代の可能性 ―八子知礼×小泉耕二【第24回】

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では第24回目をお届けする。

「高速・大容量通信」「低遅延」「多接続」を特徴とし、次世代の無線通信技術として期待される「5G」。2019年に入り、国内でも各社の実証実験のプレスリリースを頻繁に見るようになった。しかし、5Gはある意味「夢の技術」として期待が高まる一方で、そのイメージを鮮明に与えてくれるようなアプリケーションはまだ登場していない。5Gのポテンシャルを最大限に活かすには、どのような視点が必要なのだろうか。今回で24回目(2周年)をむかえる八子×小泉の放談企画では、5Gの可能性と普及のカギを握るポイントについて議論した。

5Gが可能にする、「空間転送」の世界観

小泉: 今秋あたりから、国内でも各社が続々と5Gの実証実験を始めています。私はここ数年、毎年2月にバルセロナで開催されているMWC(モバイルワールドコングレス:世界最大のモバイルカンファレンス)で、5Gのユースケースを追い続けてきました。そこでは、確かに5Gの可能性は感じるものの、実装となるとなかなか難しいなという印象を受けていました。それについては、これまでも何度か記事で述べてきました(記事の例はこちら)。

八子さんは、年始のIoTNEWSセミナーで「5Gは空間のコピーを可能にする」ということをおっしゃっていましたね(記事はこちら)。今あらためて、5Gにどのような可能性を感じていますか?

八子: 安い・速い・うまい、ではないですが(笑)、たくさんのデバイスが同時につながるので接続単価が安くなりますし、ネットワークのレイテンシーが大幅に改善されるため、もはや遅延を気にしなくてよい。あとは、帯域が広がりますから、大量のデータをクラウドに上げること(特にアップロード方向)ができます。

特に、5Gの「低遅延性」を活かせば、どこかで起こっていることを、同時に、別の空間で再現することができます。それにより、たとえば遠隔の外科手術などが可能になるでしょう。

小泉: 現場(手術室)で起きている状況を目の前にコピーすることで、現場にいない人(医者)が操作(手術)できるようになると。

八子: そうです。さらには、複数の人があちこちにいて、それらがシンクロして、操作を行うなど。

小泉: どんなイメージでしょうか?

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八子: たとえば、日本全国で別々の場所で行われている大運動会とかですね。「よーいドン!」と声があがると、(別々の場所にいる)全員がいっせいに走り出すとか。

小泉: なるほど。別々の場所にいるのに、あたかも一緒に運動会をやっているような環境がつくれると。ということは、未来の小学校の玉入れは全国大会までできちゃうということですね。

八子: そうですね。あくまでたとえばの話ですが(笑)。

小泉: でも、すごく面白いと思います。

5Gの可能性、普及のカギは「空間転送」と「エッジコンピューティング」 ―八子知礼×小泉耕二【第24回】
株式会社INDUSTRIAL-X代表取締役社長/株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

八子: 重要なことは、物理的なモノをどこかに再現するということだけでなく、空間と空間がまったく同じ「状態」(人の感情や熱狂の状態まで)共有できるということです。私はこれを「空間転送」と呼んでいます。

小泉: でもそれは、5Gの技術があたりまえのように使われるような段階じゃないと、難しそうですね。

八子: ええ。たとえば、途中でネットワーク通信が切れてしまうようなことだと、成り立ちません。現在の4Gのように「普通に」つながるようにならないとだめですね。タイミングとしては、2025年頃かなと、個人的には思っています。

小泉: 空間転送ができれば、「バーチャル宴会」のようなこともできますよね。

八子: 宴会くらいなら、FaceTime(アップルのビデオ通話アプリケーション)と4G通信を使えば、今でもできますよ。実際に、私は先日、岡山城で開催されたある宴会に、東京の自宅から参加しました。

ただ、5Gを使えば、「宴会の参加」以上のことができます。宴会の会場できこえる音をすべてキャプチャする、あるいはその場の温度、湿度、照度などのデータを取得することで、別々の場所にまったく同じ環境をつくることができるのです。これが、さきほど申し上げた、「空間転送」です。それはある意味、「デジタルツイン」とも言えます。ただし、通常の意味でのデジタルツインはアナログからデジタルのコピーですが、5Gを使えば、アナログからアナログへの空間のコピーが可能になってくるわけです。

小泉: なるほど。

5Gの可能性、普及のカギは「空間転送」と「エッジコンピューティング」 ―八子知礼×小泉耕二【第24回】
株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

八子: こうした例では、「テレプレゼンス」がわかりやすい例です。遠隔地のメンバーがあたかも同じ会議室にいるかのような状態を演出する、ということです。また、その場合は映像だけではなく、「立体空間情報」を転送するということになります。つまり、遠隔地で誰かの動きや言動といった映像を見るのみならず、こちら側にいる人間の実像を、遠隔地にホログラフィックで登場させることもできるわけです。

小泉: そういう話になると、世の中が5Gに注目する理由もわかるような気がします。

八子: しかし、こうしたアプリケーションの話は、通信キャリアからは何もきこえてきません。むしろ、これくらいできなければ5Gにする意味がないです。さきほどの「バーチャル宴会」のようなことであれば、4G通信で十分できるわけですから。

小泉: 以前に、音楽のバンドメンバーがそれぞれ違うところで演奏しているのですが、遅延なく同じ空間で演奏しているように見える、というデモは見たことがあります。

八子: NTTドコモとPerfume(広島県出身の3人組テクノポップユニット)がコラボして行った、東京・ニューヨーク・ロンドンの同時パフォーマンスがそうですね。3人が別々の場所で行っているパフォーマンスが完全に一つにシンクロして、ストリーミングされるというものです。

ただ、こうしたユースケースで注意しなければならないのは、それは「低遅延性」に優れていればいいというわけではなく、バックホールの回線のボトルネックの問題にもなってきます。

小泉: バックホールというのは何でしょうか。

八子: バックホールというのは、基地局と基地局をつなげている固定回線です。その部分がどうしてもボトルネックになりますから、必ずしも情報の転送に十分な速さが担保できるわけではない。ですから、空間帯域をとんでいく電波が速ければいいという問題ではないのです。

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