カテゴリー: 生成AI活用ガイド

  • ノーコードで実現!人事データの不整合を自動抽出する給与監査システムの構築方法を解説

    ノーコードで実現!人事データの不整合を自動抽出する給与監査システムの構築方法を解説

    給与計算担当者は、毎月その計算結果が「本当に正しいか」を検証する業務が発生します。

    給与計算ソフトは、設定された数式通りに計算を行う点では完璧です。

    しかし、勤怠データの入力ミス、社会保険料の改定漏れ、あるいは手当の支給要件の勘違いといった「入り口」のミスや「判断」の誤りまでを自動で防いでくれるわけではありません。

    これらを確認する作業は、時間と集中力を要する上に、非常に属人的な「ブラックボックス」になりがちです。

    また、万が一ミスがあれば、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、法的リスクにもつながりかねません。

    そこで本記事では、ノーコード自動化ツール「n8n」を活用し、「システムが計算の不整合を自動で炙り出し、人間が最終判断する」という、給与監査ワークフローを提案します。

    給与監査自動化システムにおける4つのフェーズ

    給与計算に監査は、単に計算式が合っているかを確認するだけでなく、人事発令との整合性、変動の妥当性、そして最新の法令への適応といった多層的な検証にあります。

    本章では、この検証を実行するシステムを構築するためのフェーズを4つに定義しました。

    1.データ集約と正規化(インプット・フェーズ)

    まず、Google Driveなどのクラウドストレージを監視し、複数のシステムから出力される給与関連データを自動収集します。

    収集対象は、勤怠システムからの「総労働時間」、人事システムからの「基本給・家族構成」、現場提出の「経費・インセンティブExcel」などです。

    これらのデータは形式がバラバラであることが多いため、システムが計算可能な状態に項目名を統一し、VLOOKUP関数などを手動で組む手間とミスを排除します。

    データはExcelのような装飾や計算式を含まない「CSV形式」をあえて採用することで、システムが数値を純粋かつ正確に読み取れる状態(正規化)を担保します。これにより、手動でのデータ整形に伴うミスを排除します。

    2.厳密な照合ロジックの実行(ロジック・フェーズ)

    二つ目は、ロジックフェーズです。

    このフェーズでは、インプットフェーズで集約したデータに対し、多層的な「監査ルール」を一斉に適用します。

    例えば、人事側の「最新等級・基本給」と給与側のデータを直接突き合わせ「等級は上がっているのに基本給が据え置き」といった乖離をあぶり出したり、勤怠実績の「分単位の残業時間」に割増率が正しく適用されているかを再計算したりします。

    また、前月の支給実績と比較し、「20%以上の増減」などの極端な変動がないかをスキャンするといったことや、経費精算やインセンティブのデータが重複していないか、入力桁数の間違いがないかといった「ヒューマンエラー」を自動で炙り出す場合も、このフェーズで設定します。

    他にも、社会保険料率の改定や、年齢に応じた介護保険料の徴収開始タイミングなど、法改正に伴う「公的な計算基準」が正しく反映されているかをチェックし、適法性を担保することも可能です。

    3. 例外リストの自動生成(アウトプット・フェーズ)

    全ての照合が終わると、システムは「正常」と判断した膨大なデータをスキップし、確認が必要な項目だけを抽出した「例外リスト」を生成します。

    その際、Google Sheetsなどを用い、不整合が見つかった従業員の「従業員番号」「氏名」「エラー理由(例:残業代の計算不一致、社保改定漏れの疑い)」を自動で追記させます。

    これにより担当者は、システムが提示した「疑わしいデータ」だけを確認するだけで済み、目視チェックによる精神的・時間的負荷から解放されます。

    4. 承認プロセスと監査ログの記録(ガバナンス・フェーズ)

    担当者が異常値を精査し、修正または「問題なし」と判断したアクションは、すべてシステム上にログとして保存されます。

    これにより、「誰が、いつ、どの数値を承認したか」がデジタル証跡として残るため、将来的な会計監査や労働基準監督署の調査に対しても、高い透明性を持った給与支払い体制を証明することができます。

    n8nを活用したシステム構築方法

    では実際に、システムの具体的な構築ステップを解説します。

    今回は、「n8n」というワークフロー自動化ツールを活用し、Googleドライブ上の給与・勤怠データを自動照合することで、不整合(異常値)を抽出するというシステムを構築します。

    「n8n」は、異なるアプリやサービス同士を「ノード」と呼ばれるアイコンで繋ぎ合わせ、業務を自動化するツールです。

    AIノードを組み込むことで、AIエージェントとしての運用も可能ですが、今回は「設定した計算式やルールに則って正確にデータを制御・統合する」ツールとして活用しています。

    ワークフローの全体像

    まず、具体的な設定に入る前に、今回構築したワークフローの全体的な流れを整理します。

    このシステムは、大きく分けて「検知・取得」「解析・正規化」「照合・仕分け」「出力」の4つのプロセスで構成されています。

    このプロセスに対し、「Google ドライブトリガー(検知)」「ファイルをダウンロード(取得)」「ファイルから抽出(解析)」「もし(照合・仕分け)」「シートに行を追加する(出力)」というノードで繋ぎ合わせています。

    ノーコードで実現!人事データの不整合を自動抽出する給与監査システムの構築方法を解説
    ワークフローの全体像

    このように、左から右へとデータが流れる過程で、「人間が1件ずつ照合する」という作業を肩代わりする仕組みになっています。

    それでは、各ステップの詳細な設定を見ていきましょう。

    検知・取得(インプット)

    まず、クラウドストレージ(今回はGoogle Drive)へのファイル保存をトリガーに、後続の処理が動き出す「プッシュ型」の仕組みを構築します。

    一つ目のノードは「Google Drive Triggerノード」で、指定したフォルダに新しいファイル(CSV)がアップロードされたことを検知し、ワークフローを起動させます。

    これにより、担当者が最新の給与・勤怠データを指定のフォルダにアップロードすることで、ツールを操作することなく自動でチェックが始まる体制が整います。

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    Google Drive Triggerノードの設定画面。監視対象のフォルダや実行条件を詳細に指定する。

    具体的な設定画面では、まず接続するGoogleアカウントを選択し、監視のタイミング(Poll Times)を「Every Minute(毎分)」などに設定します。

    次に、監視対象(Trigger On)を「Changes Involving a Specific Folder」とし、対象のフォルダを指定します。

    さらに、実行のきっかけ(Watch For)を「File Created」に設定することで、新しいファイルが置かれたときのみ動作するように限定します。

    そして、トリガーが検知した最新ファイルの「ID(識別番号)」を、二つ目の「Google Drive Downloadノード」が取得し、対象のファイルをダウンロードします。

    この際、トリガーノードから渡された「File ID」を動的に指定することで、常に最新のファイルだけを確実にダウンロードすることが可能です。

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    Google Drive Downloadノードの設定画面。トリガーから渡されたファイルの識別番号(ID)を「{{ $json.id }}」という変数で受け取り、対象のCSVファイルを自動でダウンロードする。

    ここでは、Operationを「Download」に設定し、対象ファイル(File)を「By ID」で指定します。

    上図の右側の出力結果(OUTPUT)を見ると分かる通り、これにより給与データがシステム内にバイナリデータとして取り込まれ、解析の準備が整います。

    解析・正規化(データ整理)

    しかし、ダウンロードされたバイナリデータは、まだシステムにとっては「ただのデータの塊」です。

    そこで、「ファイルから抽出ノード」を配置し、中身を1行ずつのリスト形式に展開することで、システムが「名前」や「基本給」といった項目ごとに内容を読み取れる状態に整理します。

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    Extract from Fileノードの設定画面。

    ここでは、Operationを「Extract From CSV」に設定し、直前のステップで取得したバイナリデータ(data)を読み込ませることで、「従業員番号」「基本給」といった項目が構造化されたデータとして抽出されます。

    また、計算の正確さを守るため、あえて装飾のない「CSV形式(カンマ区切りのデータ)」を使用します。

    Excelファイルのようにセルの中に色や計算式が混ざっていないため、システムが純粋に数値だけを確実に読み取ることができ、計算ミスやエラーを未然に防ぐことができます。

    照合・仕分け(ロジック)

    次に、If(条件分岐)ノードにより、全従業員のデータを一瞬で検証する自動照合プロセスを実装します。

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    Ifノードの設定画面。理論上の残業代と実際の支給額を比較している。

    ここでは、「月間所定労働時間」を160時間とし、時給を1.25倍に設定して、理論上の「残業代」を算出します。この計算を人間が電卓を叩く代わりに行わせるため、以下の検証ロジックを組み込みます。

    検証ロジック(例): {{ Math.round(Number($json[“基本給”]) / 160 * 1.25 * Number($json[“法定外残業時間”])) }}

    設定画面の「Conditions」にこの数式を入力し、比較対象(Value 2)には、CSVから抽出された実際の「残業手当」の値を指定します。そして、比較演算子を「is equal to(等しい)」に設定します。

    この理論上の計算結果と、実際に支給されている「残業手当」を比較することで、n8nが計算の一致する「真実(True)」ルートと、不整合が生じている「間違い(False)」ルートに、全件データを自動的に仕分けます。

    このようにIfノードを用いることで、「正常なものはそのまま通し、確認が必要な例外だけを抽出する」という例外管理の仕組みを構築することができます。

    出力(アウトプット)

    最後に、照合ロジックで「間違い(False)」ルートへと振り分けられた不整合データのみを抽出し、管理者が確認すべき「例外リスト」として自動出力します。

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    Google Sheets(シートに行を追加する)ノードの設定画面。

    あらかじめ出力先となるスプレッドシートを作成しておき、Google Sheetsに行を追加するノードの設定画面で、異常が見つかった従業員の「従業員番号」「氏名」「エラー理由」を自動で追記(Append)するよう指定します。

    これにより、「不整合」と判定されたデータのみが、その理由と共に自動的に記録されています。

    ノーコードで実現!人事データの不整合を自動抽出する給与監査システムの構築方法を解説
    「不整合」と判定されたEMP002(佐藤花子さん)のデータが自動的に記録されている

    ここでの「不整合(異常データ)」とは、単なる計算ミスだけでなく、入力時の誤字や、本来支払われるべき残業代が不足している「未払い」の可能性などを指します。

    システムがこれらを自動検知することで、担当者は全件をチェックする手間から解放され、「疑わしいデータ」のみに集中して確認作業を行うことが可能になります。

    なお、今回は「残業代」に絞った照合を行いましたが、このワークフローは拡張することも可能です。

    例えば、Ifノードを更に追加して「深夜手当の計算不一致」や「社会保険料の控除額チェック」などの条件を連結させることで、より多角的な監査システムへと進化させることができるでしょう。

    一つの大きなプログラムを作るのではなく、判定条件(ノード)をパズルのように組み合わせることができるのが、ノーコードならではの設計思想です。

    運用におけるリスク管理と対策

    システムが完成し、自動で動くようになると、つい「すべてお任せ」にしたくなります。

    しかし、給与という極めて重要なデータを扱う以上、想定外の事態に備えた「守り」の設計が不可欠です。

    そこで最後に、システムを安全に使い続けるためのリスク管理のポイントを整理します。

    「型」の不一致によるエラーを防ぐ

    システムは「数値」と「文字」を厳密に区別します。

    CSVから読み込んだ数字が、システム上で「文字」として認識されてしまうと、正しい計算ができずに全員がエラー判定されてしまうリスクがあります。

    そこで、数式の中で Number関数を使い、強制的に数値として扱う処理(型変換)を徹底します。

    また、n8nのIfノードにある「必要に応じて型を変換する(Convert types where required)」設定を有効にしておくことで、データの形式に左右されない強固なロジックを維持します。

    計算結果の「わずかなズレ」への許容

    割り算を含む計算では、小数点以下の端数が発生します。理論上の計算結果が25,000.0001で、支給額が25,000 だった場合、人間は「一致」と判断しますが、システムは「不一致」とみなしてしまいます。

    そこで、Math.round(四捨五入)などの関数を活用し、計算結果を整数に整えることで、1円未満のわずかな差異による誤判定を防ぎます。

    会社の規定に合わせて、切り捨てや切り上げを使い分けることが重要です。

    「人間による最終確認」をプロセスに組み込む

    自動化の目的は、人間を排除することではなく、人間が「最終判断」に集中できる環境を作ることです。

    万が一、システム側の数式設定ミスやデータの不備があった場合、自動ですべてが完結する仕組みだと、誤ったまま処理が進むリスクがあります。

    そこで、システムの役割を「異常のあぶり出し」に限定します。

    出力されたスプレッドシートを見て、担当者が「なぜこの不整合が起きたのか」を確認した上で、給与確定の判断を下すという運用フローを構築することが重要です。

    ワークフローの有効化と監視

    n8nを「Active(有効)」にすると、画面を閉じていても自動で処理が実行されます。

    これは便利である反面、気づかないうちにエラーで処理が止まってしまうリスクもあります。

    そこで運用開始後は、定期的にn8nの「実行履歴」を確認する、あるいは、エラーが発生した際にのみSlackやメールで管理者に通知が届くような「エラー通知ノード」をワークフローの最後に追加することも有効でしょう。

    まとめ

    給与計算という業務は、毎月、膨大な数字と向き合いながら目視チェックに追われ、担当者の心身に大きな負荷をかけてきました。

    今回ご紹介した給与監査の自動化は、システムが正確なロジックに基づいて全件をスキャンし、人間は「異常」と判断された箇所にだけ労力を投入することができます。

    この「例外管理型」の体制へと移行することで、担当者の役割は「数字を合わせる作業者」から、給与制度の正当性を担保する「管理・監督者」へと進化します。

    まずは、今回構築したような「給与と勤怠の自動照合」などスモールスタートし、徐々に人事マスタや法令チェックへと範囲を広げていくのが良いでしょう。

    本記事が、あなたの会社のバックオフィスがよりスマートで、より信頼される存在へと進化するための一歩となれば幸いです。

  • AIはどんな業務を効率化できる?13の検証事例から見えた生成AI導入方法と活用を徹底解説

    AIはどんな業務を効率化できる?13の検証事例から見えた生成AI導入方法と活用を徹底解説

    現代のビジネス現場において、労働人口の減少に伴う人手不足は深刻な課題となっています。

    こうした背景から、AIによる業務効率化はもはや「余裕があれば検討するもの」ではなく、企業の競争力を維持するための「必須」フェーズへと突入しました。

    かつては専門的なプログラミング知識が必要だったシステム構築も、現在では生成AIやノーコードツールを組み合わせることで、現場主導でスピーディーに実現することが可能です。

    しかし、いざ導入しようとしても「具体的にどの業務をどう効率化すればいいのか分からない」という悩みを持つ方も少なくありません。

    そこで本記事では、筆者が実際にツールを操作して構築した13の検証事例をベースに、各ツールの紹介や具体的な手法、導入を成功させるためのポイントなどを解説します。

    なお、検証事例は以下で、各事例の詳しい内容はクリックすることで見ることができます。

    契約書レビューの効率化(Google Gemini活用)
    AIによる営業ロールプレイング(ChatGPT活用)
    「情報を集める」「考える」「実行する」への生成AI活用術(Gemini, Perplexity等)
    情報収集の完全自動化システム(ChatGPT, Zapier活用)
    顧客アンケートの自動設計・分析(ChatGPT, Gemini活用)
    営業日報のチェックとコーチング自動化(Dify活用)
    カスタマーサポートの問い合わせ仕分け(Dify活用)
    社内データの統合・営業支援基盤の構築(Dify活用)
    AI-OCRによる書類の構造化データ化(Dify, Gemini VLM活用)
    商談メモのナレッジ検索システム(Dify活用)
    飲食店の在庫・売上機会損失防止AI(Dify, GAS活用)
    SNS運用の内製化・企画エージェント(Make, Gemini活用)
    アンケート収集から分析・資料化までの自動化(Dify, GAS活用)

    AIによる業務効率化とは?

    AIによる業務効率化とは、単に作業を自動化するだけでなく、データの「分析」「判断」「生成」をAIに肩代わりさせることで、これまで人間にしかできなかった非定型な業務を効率化することを指します。

    特に、近年注目されている生成AIを活用することで、専門的なプログラミング知識がなくても、自然言語(話し言葉)による指示だけで高度なアウトプットが得られるようになりました。

    業務効率化の文脈でよく比較されるツールに「RPA(Robotic Process Automation)」がありますが、AIとは得意領域が異なります。

    この2つの大きな違いは、「ルールに従うか、自ら判断するか」という点にあります。

    RPAは、あらかじめ決められた手順を正確に繰り返す「定型業務」の自動化を得意としています。例えば、決まったフォームへのデータ入力や、決まった時間のメール送信などがこれに当たります。

    一方で生成AIは、膨大な学習データに基づいて文脈を理解し、自ら判断や生成を行う「非定型業務」の効率化を可能にします。

    具体的には、個人の主観が入りやすい商談メモの要約や構造化 、複雑な契約書のリーガルチェック、顧客アンケートの感情分析 など、ルール化が難しい「思考や判断」を伴うプロセスを担うことができるのです。

    つまり、RPAが「手作業の代行」であるのに対し、AIは「知的判断の代行」と言えるでしょう。

    これら2つを適切に使い分け、あるいは組み合わせることで、業務全体の生産性を向上させることが可能になります。

    比較項目 RPA(定型業務の自動化) AI(非定型業務の効率化)
    得意なこと 決められた手順の繰り返し(データ転送など) 文脈の理解、要約、予測、創作
    判断の有無 ルール通りに動く(判断はしない) 学習データに基づきAIが自ら判断する
    柔軟性 手順が変わるとエラーになる 曖昧な指示や状況の変化にも対応可能
    活用例 定型フォームへの入力、大量の転記作業 契約書レビュー、商談メモの分析

    AIで業務効率化を行うメリット

    AIを業務に導入することで得られるメリットは、単なる「時間の節約」に留まりません。

    実際に筆者が検証してきた中で見えてきた、主なメリットは以下の3点です。

    ①:生産性の向上とクリエイティブな時間の創出

    ルーチンワークや膨大な情報の処理をAIに任せることで、人間は「意思決定」や「対人コミュニケーション」といった、よりクリエイティブで付加価値の高い業務に集中できるようになります。

    例えば、数時間がかりだった100社分のアンケート分析や、情報収集を自動化することにより、戦略立案の時間を確保できます。

    また、カスタマーサクセス部門では、問い合わせの増加と複雑化により「仕分け(ルーティング)」業務がボトルネックとなりがちですが、AIにより問い合わせ内容のカテゴリ分類、緊急度判定、要約を自動で実行させることができます。

    こうして効率化したことでできた時間で、担当者は本来の業務である「顧客への直接対応」に専念することができます。

    ②:ミスの削減と品質の均一化

    人間が行う業務には、どうしても「体調による精度のムラ」や「主観による判断のバラつき」が生じます。

    一方AIは、一定のロジックに基づいて24時間稼働するため、業務品質を高い水準で安定させることができます。

    例えば、専門知識と時間を要する契約書レビュー(リーガルチェック)において、AIが一次チェックを担うことで、重要なリスクの見落としを防ぎつつ、レビュー時間を効率化できます。

    また、営業ロールプレイングにおいては、AIを相手役にすることで、評価のバラつきを排除した客観的なフィードバックを24時間いつでも提供でき、組織全体のスキルを底上げすることができるでしょう。

    これまで人が行っていたデータ入力に関しても、AIが代行してくれます。その際、どんな項目(ラベル)で整理するかを指定することで、AIは単に文字を読むだけでなく、「これが社名、これが金額」と中身を整理してデータにしてくれます。

    これにより、手入力によるミスをゼロに近づけ、システム連携をスムーズにします。

    ③ 個人の知見を組織の「資産」へ変換

    社内には、日報、商談メモ、在庫データなどの「活用しきれていない情報」が点在しています。

    そこで、それらのデータを統合し、AIにより価値ある知見へと変換できる点も、大きなメリットです。

    例えば、個人のPCに埋もれがちな商談メモをAIが理解しやすい形に構造化し、ナレッジベース(RAG)として蓄積することで、誰でも過去の成功事例に裏打ちされた対策を引き出せるようになります。

    また、単なる記録として終わっていた「営業日報」をAIが分析し、次の受注を引き出すための具体的なアクションを提案するシステムに変えることで、組織的な成長を促します。

    他にも、飲食店の在庫データなどと連携し、AIがリアルタイムで「今、何を売るべきか」を現場スタッフへ提案することで、機会損失を最小限に抑え、利益率の向上に直結させることができます。

    業務効率化を支える「AI・ノーコードツール」の基礎知識

    今回の13の検証事例を実現するために主に活用したのは、プログラミングコードをほとんど書かずに高度なシステムを構築できる「ノーコードツール」と、「生成AI」です 。

    こうしたツールを組み合わせることで、従来のシステム開発では数ヶ月かかっていたような仕組みを、わずか数日で形にすることが可能になります。

    生成AI(LLM):思考と判断のエンジン

    生成AIは、業務の「頭脳」となる部分です。用途に応じて最適なモデルを使い分けています。

    特に大規模言語モデル(LLM)は、膨大な学習データに基づき、人間のように文脈を理解し、論理的に推論した上で新たなアウトプットを生み出す「デジタル上の頭脳」としての役割を果たします。

    従来のシステムは「Aという入力にはBと返す」という固定されたルール(プログラム)で動いていました。そのため、少しでも形式が違うとエラーになる脆さがありました。

    しかし生成AIは、「この書類の中から〇〇に関わる項目を整理して抽出して」というような、曖昧な指示(プロンプト)でも意図を汲み取り、状況に応じた最適な判断を下すことができます。

    例えば、複雑な契約書の条文や、散らばった商談メモから文脈を理解し、重要なポイントを特定した上で、「現状がこうであれば、次はこのアクションが必要だ」といった仮説を立てることが可能です。

    また、テキストだけでなく、画像や音声、プログラミングコードなど、異なる形式の情報を相互に処理できます。

    一口に生成AIと言っても、開発会社やモデルの種類によって「得意分野」が異なります。

    業務の目的(コスト、精度、スピード、専門性)に合わせて最適なモデルを選択することが、効率化の鍵となります。

    以下が、主要な生成AIの特徴です。(※2026年2月9日現在)

    モデル (社名) 得意分野 特徴・VLM (視覚) 能力 推奨業務
    Claude
    (Anthropic)
    論理的整合性と
    文書構造の認識
    • 論理と安全性: 複雑な指示を正確に守る能力や長文処理に優れ、金融・医療分野でのミスを抑制します。特にClaude 4.5 Sonnetはコーディングやエージェント(自律型AI)適性が高いモデルです。
    • VLM (視覚) 能力: 特に、PDFやスキャン書類の読み込みにおいて、図表や段組みといった「文書の構造」を維持したまま正確にテキスト化・分析することに長けています。
    • 契約書レビュー、技術仕様書作成
    • エージェント型開発
    • 金融レポート等の構造化データ化
    ChatGPT
    (OpenAI)
    汎用性・EQと
    視覚的推論
    • 汎用性とEQ: GPT-5は「速い」と「深い思考」を自動で切り替えます。高いEQ(感情知能)を持ち、親しみやすい会話やクリエイティブな文章作成が得意です。
    • VLM (視覚) 能力: OpenAI o3/o4-miniは「画像を使って考える」ことができます。ホワイトボードの手書き図やグラフを「思考の連鎖」に組み込み、論理的に分析して回答を導き出します。
    • 顧客対応、アイデア出し
    • ホワイトボードメモからのタスク生成
    • 手書きラフからのアプリ生成
    Gemini
    (Google)
    ネイティブ・マルチモーダルと
    圧倒的なスピード
    • マルチモーダルとスピード: Gemini 3シリーズは、テキスト・画像・動画を最初から一つのモデルで理解する設計です。
    • VLM (視覚) 能力: 動画や大量の画像データを一度に読み込む能力に長けています。動画からの資料作成や分析が可能です。Flashモデルは高速・低コストで大量データを処理します。
    • 動画分析、大量データの高速処理
    • Google検索と連動した情報収集
    • Google Workspace連携業務

    AIアプリ構築プラットフォーム

    AIアプリ構築プラットフォームは、AIと各種データを繋ぎ、一つの「アプリ」として機能させるための土台です。

    今回の検証事例の多くで中心的な役割を果たしているのは、オープンソースのAIアプリ開発プラットフォーム「Dify」です。

    「Dify」は、データの入力から、AIによる分析、条件分岐(IF/ELSE)、最終的な出力までを「ノード」と呼ばれるブロックで視覚的に繋いで構築できるのが特徴です。

    その他のプラットフォームとしては、より簡易的な構築ができる「Poe」、SNS連携に強い「Coze」、エンタープライズ向けの「Azure AI Studio」などがあります。

    自動化・連携ツール

    自動化・連携ツールは、異なるアプリ同士を連携させ、人間の介入なしに業務を回すためのツールです。

    今回の検証事例では、RSSフィードからのニュース収集には「Zapier」を、SNS運用の自動化フローにおいては「Make」を活用し、アプリ間の「橋渡し」をしてくれています。

    その他のツールとしては、より複雑な分岐や高度なデータ処理を得意とする「n8n」、Microsoft製品との親和性が高い「Power Automate」、初心者でも扱いやすいシンプルな連携に適した「IFTTT」などがあります。

    Google スプレッドシート/GAS(Google Apps Script)

    Google スプレッドシートは、単なる表計算ソフトとしてではなく、システムのデータベースや操作画面としての役割を担います。

    そしてシステムとGoogle スプレッドシート、あるいはシステムと人を繋ぐために、GASを活用します。

    例えば、Googleスプレッドシートを、「顧客の声(VOC)」を蓄積するマスターデータとして活用したり、飲食店の在庫数や売上データをリアルタイムで管理する台帳としての役割を持たせたりすることができます。

    AIはこれらのデータに直接アクセスし、状況を把握したり、分析結果を特定のセルに書き戻したりすることが可能です。

    そこにGASを組み合わせることで、外部ツールとの高度な連携が実現します。

    GASはスプレッドシートとDifyなどのAIプラットフォームをAPIで繋ぐ「スイッチ」のような役割を果たします。

    例えば、シート上に「分析開始」というボタンを一つ配置し、それを押すだけでGASがDifyを呼び出し、最新の在庫状況に基づいた「今日売るべきメニュー」の提案をAIに生成させる、といった自動化フローを構築できます。

    このように、使い慣れたインターフェースをそのまま「AIアプリの操作パネル」に変えられる点が、スプレッドシートとGASを組み合わせるメリットです。

    営業・セールス部門:AI業務効率化の検証事例レポート

    次に、筆者が実際に構築・検証したワークフローを、部門別に紹介します。

    まずは、営業・セールス部門において、商談の質とナレッジ共有を強化する事例です。

    多くの営業組織では、マネージャーの時間が取れず、営業ロールプレイングの質や頻度が属人的になっていたり、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を導入しても、入力することが目的化し、次のアクションに繋がる知見が得られないといった課題が存在します。

    また、「デキる営業」が持つ商談メモやノウハウが個人のPCや頭の中に留まり、組織の資産として共有されないといった知見の属人化も問題です。

    これらの「現場の負」を解消すべく、4つのモデルを構築しました。

    受注確度スコアリング(Dify)

    まずは、Difyとは何か、AI分析に適したデータ構造とは何かなど、基本となる前提知識を紹介した記事です。

    実際に構築したのは、構造化データと非構造化データをAIで統合するべく、営業担当者の「リード確度評価と推奨アクションの提示」を自動化するワークフローをDifyで構築しました。

    これにより、過去の成功事例とリアルタイムの顧客状況を照らし合わせ、AIが受注確度スコアとリスク要因を推論・レポート化することで、根拠のある営業戦略の立案を支援します。

    詳しい内容はこちら:AIで社内に点在するデータを「価値」に変えるには?営業業務効率化へ向けたDifyによるシステム構築方法も紹介

    AIコーチによる営業ロープレ(ChatGPT)

    2つ目は、営業スキルの向上に不可欠なロールプレイングに生成AIを活用したモデルです。

    営業のロープレにおいては、「相手役の確保」や「評価の客観性」が多くの企業にとっての課題です。

    そこで、ChatGPTの「プロジェクト機能」を活用し、自社商材の知識や特定の顧客ペルソナを学習させました。

    これにより、24時間いつでも、実際の顧客に近い反応を得ながら、改善点に対する客観的なフィードバックを即座に得られる「専用AIコーチ」を構築しました。

    詳しい内容はこちら:営業ロープレにAIを活用する方法と課題とは?ChatGPTでできる実践法や成功事例も解説

    営業データの知見化プロセス(マルチAI)

    3つ目は、SFAやCRMを導入しても、データを「入力して終わり」になりがち、という課題に対し、生成AIで「眠った資産」を価値に変えるアプローチを検証しました。

    具体的には、業務を「情報を集める(リサーチ)」「考える(仮説)」「実行する(自動化)」の3ステップに分解しました。

    そして、リサーチにはPerplexity、思考・仮説にはGeminiやClaude、自動化にはCopilotといったように、各フェーズにおいて最適なAIは何かを紹介しています。

    詳しい内容はこちら:生成AIで営業データを使える知見に変えるには?業務別の生成AI活用方法と事例を紹介

    営業日報・商談メモの資産化システム(Dify)

    最後に、膨大な日報や、個人のPC内に埋もれがちな商談メモを、組織全体のナレッジに変えるシステムを構築しました。

    ノーコードツール「Dify」を用い、AIが日報から「現状把握」や「リサーチ判断」を行い、人間が判断を加えるための具体的なフィードバック案を自動生成するワークフローを構築しました 。

    また、商談メモのRAG(知識検索)化では、商談メモを「事実・解釈・次の行動」に構造化し、Difyのナレッジベース(RAG)に蓄積。過去の成功事例に基づいた具体的な対策やトーク案を対話形式で引き出せる仕組みを実現しました。

    詳しい内容はこちら:生成AIでデキる営業の商談メモを再現性のあるナレッジへ、Difyを使ったナレッジ検索システム構築方法も解説

    バックオフィス・法務部門

    次に、バックオフィスや法務部門において、専門知識を要する業務や膨大なリサーチ、書類のデータ化をAIで効率化した事例を紹介します。

    バックオフィス部門では、法改正や業界トレンドのチェックに追われ、本来注力すべきリスク管理や社内制度の設計に時間が割けないといった課題が目立ちます。

    また、契約書レビューが特定の担当者に集中してボトルネックになったり、PDFや画像などの「デジタル化されていないデータ」の転記作業に多くの工数が奪われたりしているのが現状です。

    これらの「専門業務の停滞」と「単純作業の負荷」を解消すべく、以下の3つのモデルを構築しました。

    リーガルチェックの効率化(Gem)

    1つ目は、専門知識と多大な時間を要する契約書レビュー(リーガルチェック)の一次スクリーニングを効率化したモデルです。

    リーガルチェックには、専門的な知識が求められるほか、担当者の経験やスキルによるレビュー品質のばらつき、繁忙期の品質低下などの課題があります。

    そこで、Googleの生成AIGeminiを、特定のタスクに特化させるためのカスタムAIツール「Gem」を活用。

    一連の指示(プロンプト)を事前に設定し、過去の契約書や社内規定といったリーガルチェックに必要な知識をアップロードすることで、自社のチェック基準に則りレビューを実行させました。

    これにより、リスク箇所の特定や修正案の提示を数秒で完了させることができ、担当者は特に注目すべき点を前もって把握することができるため、レビュー時間の短縮と品質の均一化が見込めます。

    詳しい内容はこちら:生成AIで契約書の「リーガルチェック」 知らないと損するGoogleのGem活用術

    Gemを活用すれば、手軽にリーガルチェックのアシスタントを構築できますが、この方法の場合、生成AIの回答を管理する手間や、ハルシネーションのリスクがあります。

    そこで、DifyとGASを組み合わせ、さらなる効率化と契約書の管理も同時に行えるシステムも構築しました。

    具体的には、Googleドライブの特定のファイルに契約書をアップロードすることで、GASがDifyへと送信し、Dify内で設定したプロンプトに沿って、RAGを参照しながら解析、解析結果をスプレッドシートに記述という一連の流れを実行できるようにしました。

    これにより、契約書のアップロードからリーガルチェックまでの一連の流れを効率化することができます。

    詳しい内容はこちら:Dify×GASで契約書レビューからデータ蓄積・管理までを行う生成AIシステムの構築方法を解説

    AI-OCRによる書類の自動データ化(Dify・Gemini VLM)

    2つ目は、「紙書類」のアナログ業務を打破する、AI-OCRの検証事例です。

    多くの組織では、未だに注文書や請求書、契約書が紙やPDFのままやり取りされており、それらを人間が手入力でシステムへ転記する作業が生産性を著しく押し下げています。

    そこで、画像とテキストを同時に理解できる「Gemini VLM(視覚言語モデル)」とDifyを組み合わせ、PDFで届く非定型な契約書をシステムへ手動で転記する作業を効率化するAI-OCRシステムを構築しました。

    ディープラーニングを活用したAI-OCRは、単に文字を認識するだけでなく、書類のレイアウトや文脈を人間のように理解します。

    例えば、取引先ごとにバラバラな形式で届く「契約書」や「注文書」であっても、AIが自動で「これが金額」「これが契約日」と項目を特定。システム連携に最適な構造化データ(JSON形式)として出力します。

    これにより、テンプレート設定の工数をゼロにしつつ、手入力によるミスを排除することができます。

    アナログな紙の情報を、ボタン一つで「価値あるデジタルデータ」へと変換し、コア業務へ集中できる環境を構築するステップを解説しています。

    詳しい内容はこちら:AI-OCRとは?基本定義や種類からDifyとGeminiで営業の紙処理を自動化するステップも解説

    情報収集の完全自動化システム(Zapier・ChatGPT)

    3つ目は、情報収集を自動化するシステムです。

    法務や企画部門にとって、法改正や補助金、競合動向のチェックは不可欠ですが、「必要な情報を探すだけで毎日1時間かかる」といった課題が多くの現場で起きています。

    生成AI単体でも要約は得意ですが、AIはあくまで「人が指示した時」に動くツールであり、特定のサイトを常時監視して新着を通知し続けるといった「完全自動化」には、外部ツールとの連携が不可欠です。

    そこで、自動化ツールのZapierと生成AIを組み合わせ、「情報収集→分析→共有」の全工程を無人化しました。

    具体的には、Zapierにより特定のサイトやキーワードを指定し、新着情報を自動検知します。

    そして、検知した情報をZapierを介して生成AIのAPIへ自動で飛ばし、重要度の判定と要約をAIが実行します。

    自動転送:分析結果をSlackへ自動投稿したり、スプレッドシートへ日付順に自動追記してデータベース化したりします。

    これにより、人間は「探しに行く・コピペする」手間から完全に解放され、届いた要約を確認するだけで、常に最新の状況に基づいた意思決定ができる環境を実現しました。

    詳しい内容はこちら:生成AIで情報収集はどこまで自動化できる?ChatGPTやZapierを活用した自動化システム構築方法を解説

    マーケティング・CS部門

    続いて、マーケティングやカスタマーサポート(CS)部門において、膨大な顧客の声(VOC)の解析や、トレンドの変化が激しいSNS運用の内製化を、AIで高度化した事例を紹介します。

    マーケティング・CS部門では、アンケートの自由記述やSNS上の口コミ、日々の問い合わせなど、膨大な「定性データ」が集まる一方で、それらを一つひとつ読み込んで分析するには膨大な工数がかかります。

    その結果、貴重な顧客の声を施策に活かしきれなかったり、SNS投稿のネタ切れや、CS対応の初期仕分けに時間がかかり返信が遅れるといった課題が生じています。

    これらの「データ過多による分析不足」と「運用リソースの枯渇」を解消すべく、4つのモデルを構築しました。

    アンケート設計・分析の自動化(ChatGPT・Gemini)

    1つ目は、顧客アンケートの設問設計から、回収後の膨大な定性コメントの解析までをAIで一気通貫させたモデルです。

    アンケート業務には「目的からズレない設問設計」と「自由記述分析の膨大な労力」という2つの大きな壁があります。

    特に自由記述は、表記揺れの修正やラベル付けといったデータクレンジングだけで数週間を要することも珍しくありません。

    そこで、生成AIを「再現可能な設計テンプレート」および「高速な自然言語処理エンジン」として活用し、その精度を検証しました。

    検証の結果、AIは設問案の作成や、100社分以上の自由記述からの「テーマ分類」「感情分析」「改善提案の抽出」において極めて高い精度を発揮しました。

    一方で、数値の正確な計算(NPS算出等)やグラフ生成には課題があることも判明しました。

    詳しい内容はこちら:生成AIを顧客アンケートの設問設計・分析に活用するには?ChatGPT・Geminiを活用して精度を検証してみた

    アンケート収集から資料作成までを自動化(GAS・NotebookLM・Gemini)

    2つ目は、1つ目のモデルで浮かび上がってきた課題を乗り越えるべく、アンケートの設問設計から回答収集、そして最終的な「報告用スライドの作成」までを完全に自動化したハイブリッドモデルを構築しました。

    今回のモデルでは、「計算は正確なプログラム(GAS)に、解釈はAI(NotebookLM)に」という適材適所の役割分担を採用しました。

    具体的には、まず、集計後のアウトプットから逆算して設問を設計(数値固定や属性の選択肢化)し、GASによって100%正確な集計表を自動生成します。

    その一次情報をAIノートツール「NotebookLM」に読み込ませることで、AIの嘘(ハルシネーション)を排除した正確な洞察とスライド構成を抽出します。

    最後に、GeminiのCanvas機能でGoogleスライドへ変換することで、報告資料を完成させるワークフローを実現しました。

    SNS運用の内製化エージェント(Make・Gemini)

    3つ目は、リサーチから企画・ネタ出しまでの「0から1」の工程を代行する、SNS運用の内製化モデルです。

    SNS運用において担当者を最も苦しめるのは、日々の膨大なニュース巡回(リサーチ)と、そこから自社のアカウントらしい切り口を見つけ出す「ネタ出し」の連続です。

    これらを外注すると多額のコストがかかり、自社で行うと工数過多で本来の戦略立案や分析に時間が割けなくなります。

    この課題を解決するため、運用フローを「リサーチ・企画・制作・分析」の4ステップに分解し、前半の2工程を自動化する「自律型エージェント」を構築しました。

    具体的には、自動化ツールのMakeを活用し、特定サイトの更新をRSSで常時監視。新着記事を検知すると、AIが「自社ターゲットにとって投稿価値があるか」を自動選別し、要約とSNSでの切り口を添えて担当者へGmail通知する仕組みを構築しました。

    これにより、担当者は「ネタ探し」という受動的な作業から解放されます。

    そして、企画・ネタ出しでは、GeminiのカスタムAI機能「Gem」を用い、特定の役割を学習させた専用アシスタントを作成。競合の成功投稿の分析や、特定のテーマに基づいた動画・テキスト用の構成案、キャッチコピー、ハッシュタグを生成させます。

    これにより、人はAIが生成した「タタキ台」をもとに、最終的な価値判断とブラッシュアップを行うことで、情報の鮮度を落とさずに高品質な運用を継続できる、という体制を実現しました。

    詳しい内容はこちら:SNS運用をAIで内製化するには?カスタムAIとノーコードツールで効率化する方法を解説

    CS問い合わせの自動ルーティングシステム(Dify)

    3つ目は、カスタマーサポート(CS)に届く問い合わせを、内容に応じてAIが自動で仕分ける仕組みです。

    デジタル化の進展により、CS部門には日々大量かつ複雑な問い合わせが寄せられますが、その中から「システム障害」「重大なクレーム」「解約」といった緊急性の高いものを、大量の一般的な質問の中から手作業で見つけ出すのは困難です。

    この「仕分け」がボトルネックになると、初動が遅れ、顧客満足度の低下や離脱リスクの増大を招きます。

    この課題を解決するため、今回も「Dify」を活用し、問い合わせ内容をAIが瞬時に解析・分類・通知する自動ルーティングシステムを構築しました。

    単なるキーワードマッチングではなく、Difyの「質問分類器ノード」を用いて、AIが文章の意図を理解し「料金・請求」「故障・サポート」「解約」などのカテゴリに自動で振り分けます。

    そして、LLMが問い合わせのトーンを解析し、緊急度を「HIGH/MEDIUM/LOW」の3段階で評価します。

    さらに、担当者が一目で状況を把握できるよう、内容を30文字以内で自動要約します。

    最後に、IF/ELSEノードを活用し、緊急度の高いものは即座にSlackやメールでアラート通知を行い、それ以外は通常の管理システムへ蓄積するといった、優先順位に基づいた経路選択を自動化しました。

    これにより、人間が全てのメールを読み込む「仕分け」時間を削減し、最優先事項に即座に対応できる「攻めのサポート体制」の構築ステップを解説しています。

    詳しい内容はこちら:カスタマーサポートの仕分けにAIを活用するメリットとは?Difyを活用したシステム構築ステップも紹介

    店舗・現場運営部門

    最後に、飲食店や小売店などの現場運営において、これまで店長や熟練スタッフの「経験と勘」に頼っていた判断を、データに基づいた「次の一手」に変換し、売上機会の最大化と業務の標準化を支援する事例を紹介します。

    店舗の最前線では、日々膨大な売上や在庫データが生成されていますが、その多くは「営業終了後の集計」にのみ使われ、営業中の「今、どう動くべきか」というリアルタイムなアクションには活かせていないという課題がありました。

    これらの「情報のリアルタイム性の欠如」を解消し、誰でも最適な判断ができる環境を作るべく、以下の3つのモデルを構築しました。

    リアルタイムメニュー提案エージェント(Dify・GAS)

    1つ目は、スプレッドシートを「単なる台帳」から、AIが判断を下すための「インテリジェントな意思決定エンジン」へと進化させた飲食店向けの支援モデルです。

    飲食店における悩みの一つは、食材の廃棄(ロス)と、利益率のコントロールの両立です。

    そこで、在庫データ・賞味期限・メニューごとの利益率をスプレッドシートで一元管理し、DifyとGAS(Google Apps Script)で連携させました。

    現場スタッフは「今、一番売るべきメニューは?」とAIに問いかけることで、AIがスプレッドシート内のデータをリアルタイムに参照します。

    そして、「期限が迫っているA食材を使い、かつ利益率が高い『季節のパスタ』を最優先でリコメンドしてください」といった、具体的な提案理由とトーク案を即座に提示します。

    これにより、廃棄ロスを抑えながら利益を最大化する「攻めの接客」が可能になります。

    詳しい内容はこちら:飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案

    顧客の声の一括分析システム(Dify・GAS)

    2つ目は、現場に届く「製品への期待」や「お叱り」などの貴重な声を、ボタン一つで改善レポートに変えるシステムです。

    色々な店舗でアンケートを実施すると、内容の粒度や表現が統一されていないため、「書き方がバラバラ」で集計すら困難なケースが多々あります。

    そこでまずは、生成AIの「文脈理解能力」を活用し、表計算ソフトで簡易的に分析しました。

    今回は、Googleスプレッドシートを活用し、1行目に「ID」「発生時期」「問い合わせ内容(Description)」といった項目を整え、サイドパネルに搭載されたAI(Gemini)を活用。対話形式でVOCを分析しました。

    例えば、「このシートの応対メモを分析して、不満が多い順に3つのカテゴリーで要約して」とチャットで指示すると、現状の課題や優先順位を数秒で可視化してくれます。

    さらに高度な運用として、スプレッドシート上に配置した「分析実行」ボタンを押すだけで、アナリストレポートを自動生成するシステムも構築しました。

    ボタンを押すとGAS(Google Apps Script)がDifyを起動し、AIが記録をスキャンします。

    Difyでは「全体傾向の要約」「具体的な不満内容の抽出」「改善アクション案」を出力するよう設定し、自動でスプレッドシートに書き戻してくれる仕様としました。

    これにより、分析の専門知識がなくても、ボタン一つで「顧客の不満の核心」を突いたレポートを受け取れる体制を実現しました。

    詳しい内容はこちら:顧客の声を生成AIで活用できる資産へ、ボタンひとつで分析するシステムの構築方法を解説

    まとめ:AI導入を成功させるための共通ポイント

    ここまで、部門別の具体的な13の検証事例を見てきました。

    最後に、これらのシステムを構築・運用する中で見えてきた、AIによる業務効率化を成功させるための「3つのポイント」をまとめます。

    1.「小さく始めて、大きく育てる」

    最初からすべての業務を自動化する完璧なシステムを目指すと、要件定義だけで数ヶ月が過ぎてしまいます。

    まずは、「一日のうち30分かかっている、この単純作業だけをAIに任せてみる」といった小さなPoCから始めることが重要です。

    今回紹介したツールの多くは、無料または低コストで始められるものばかりです。

    現場で使いながら、「もう少しこうしたい」というフィードバックを元に改善を繰り返すことが、結果として最短で実用的なシステムへと繋がります。

    2.「Human-in-the-Loop(人間介在型)」の設計

    AI、特に生成AIには「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクが常に伴います。

    法務チェックや在庫管理などの重要な判断をすべてAIに丸投げするのは、現時点ではリスクが大きすぎます。

    成功の鍵は、「AIに下書き(分析・要約)をさせ、人間が最終判断(承認)を下す」というワークフローをシステムの中に組み込むことです。

    AIを「全自動の機械」ではなく、「有能だが少しおっちょこちょいな新人アシスタント」として捉え、人間がチェックする工程をセットにすることが、組織として安全にAIを使いこなすコツです。

    3.「出口(アウトプット)」から逆算してデータを整える

    AIの性能を最大限に引き出すためには、データの「入り口」を整えることが不可欠です。

    アンケートの設問や日報の項目を、AIやプログラムが処理しやすい形(選択肢の固定や数値化など)へあらかじめ整理しておくことで、分析の精度は飛躍的に向上します。

    「どのようなレポートが欲しいか(出口)」を明確にし、そこから逆算して「どのような形式で入力すべきか(入り口)」を設計する。

    この視点を持つだけで、AI活用の成功率はぐんと高まります。

    今回紹介した事例は、特別なエンジニアでなくても、ノーコードツールと生成AIを組み合わせることで実現できるものばかりです。

    まずは、あなたの目の前にある「ちょっと面倒なあの業務」から、AIという頼もしいパートナーと一緒に改善の一歩を踏み出してみませんか?

  • 現代のOJTの新常識!?Difyで教育を「補完」する対話型AIメンターの構築方法を解説

    現代のOJTの新常識!?Difyで教育を「補完」する対話型AIメンターの構築方法を解説

    企業にとって、新人教育は優先順位の高い重要な項目であるにも関わらず、深刻な労働力不足により、満足に行き届いていないケースも多いのではないでしょうか。

    そこで注目されているのが、AIの活用です。

    以前の記事では、営業のロールプレイングをAIで実践できる方法を紹介しました。

    以前の記事:営業ロープレにAIを活用する方法と課題とは?ChatGPTでできる実践法や成功事例も解説

    この方法は、新人が自分自身でスキルを向上させることを主な目的としています。

    今回はさらに踏み込み、新人が学習している過程を蓄積することで、マネージャー層が適切なアドバイスを行えることを目的としたシステムの構築方法を紹介します。

    新入社員教育の課題

    前回の記事で紹介したAIロープレは、AIを相手に反復練習を行うことで、商談の基本的な「型」を習得するスピードを向上させることができます。

    しかし、実際の現場では、「マニュアルにはこう書いてあるけれど、このケースはどう判断すべきか?」「先輩は忙しそうだし、こんな初歩的なことを聞いて手を止めてもいいのだろうか……」といった、マニュアルにない例外と聞くに聞けない社内の空気の狭間で、新人は「日々の孤独」を感じ始めます。

    この孤独感の蓄積こそが、配属先による教育格差や、早期離職の引き金となるリスクを秘めています。

    一方で、教える側のマネージャー層も、「自身のプレイヤー業務」と「新人の育成」を同時に進行しなくてならず、なかなか教育に手が回らない。

    これが、現代のOJT現場で起きている現実なのではないでしょうか。

    そこで今回、人間の指導を代替するのではなく、教育を「補完」する「対話型AIメンター」を構築していきます。

    「対話型AIメンター」3つの定義

    本記事で提案する「対話型AIメンター」は、単なるチャットボットではありません。

    以下の3つの役割を1つのインターフェースで統合した、新人のための「専属パートナー」をイメージしています。

    1.知識:膨大なマニュアルを検索する

    一つ目は、新人の問いに対して「社内の正解」を数秒で提示するコンシェルジュの役割を果たします。

    社内に散在する製品仕様書、FAQ、過去の商談事例などを知識として統合し、製品の商品仕様や価格、競合との差など、知りたい情報に対して「あの資料のどこに書いてあったっけ?」と探す時間をゼロにし、新人の自己解決能力を支援します。

    これにより、新人が「資料を探す」「先輩の空き時間を待つ」といった非生産的な時間をなくすとともに、マネージャー側も自身のコア業務を中断されることなく、より高度な判断を要する指導に専念できるよう支援します。

    2.スキル:顧客の反論に即座に対応する「AIロープレ」

    次は、新人がAIに質問することで得た知識を「使える形」にする必要があります。そこで今回も、AIロープレの役割を担ってもらいます。

    AIが具体的な顧客ペルソナになりきり、反論処理や提案の壁打ち相手を務めます。対話後には即座に定量的なスコアリングとフィードバックを提示します。

    人間相手では躊躇してしまうような「初歩的なミス」や「不慣れな提案」も、AI相手なら何度でもノーリスクで試行できます。

    この「安全な失敗」の積み重ねが、本番の商談における自信へとつながります。

    また、指導者の主観に左右されない一貫した評価軸でフィードバックを行うため、配属先や指導担当によって新人のスキルにバラつきが出る「教育格差」を防止します。

    3.可視化:スプレッドシートへの経過の蓄積

    新人が行った質問やロープレの対話ログは、マネージャーが確認できる状態にすることで、適切な対処を行えるように支援します。

    今回は、スプレッドシートにログを蓄積することで、ブラックボックス化しがちな「新人の習熟度と精神状態」を可視化します。

    評価者ではないAI相手だからこそ吐露される「実はここが理解できていない」「この作業に不安がある」といった本音のログを蓄積することができ、マネージャーは表面化する前の実質的な課題を把握できます。

    また、スプレッドシートに蓄積された「質問トピック」や「壁打ち回数」を分析することで、組織全体の教育課題が浮き彫りになります。

    例えば、「全社員が特定の製品仕様で何度も壁打ちしている」ことが判明すれば、それは個人の能力不足ではなく、マニュアルの不備や全体研修の不足であると判断し、ピンポイントで対策を打つことが可能になります。

    さらに、「どのタイミングで、どのような内容に悩んでいるか」を時系列で追えるため、マネージャーは「何に悩んでいるのかを聞き出す」手間を省き、最初から解決策を提示する形で介入できます。

    つまり、つまずきが深刻化し、離職リスクが高まる前に予防的なコーチングを行うための「アラート」として機能します。

    このように、「情報の整理」や「基本知識の定着」といった定型的な教育はAIに任せ、そこから得られたデータを元に、人間であるマネージャーが、より高度で感情的なケアに集中できる環境を構築することが重要です。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術

    次に、実際にノーコードAIプラットフォーム「Dify」を活用し、「対話型AIメンター」を構築していきます。

    今回のシステムは、ユーザーの入力を受けてからスプレッドシートに記録するまで、以下の5つのプロセスをワークフローとして繋いでいます。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術
    システム全体のワークフロー
    1. 事前準備:スプレッドシートを作成してデータの受け皿を作る
    2. 開始ノード:ユーザー名や学習の難易度を受け取る。
    3. 知識取得(RAG):製品マニュアルから必要な情報を検索する。
    4. LLMノード:検索結果に基づき、メンターまたは顧客として回答を生成する。
    5. パラメータ抽出:AIの回答から「スコア」や「要約」をデータとして切り出す。
    6. HTTPリクエスト:抽出したデータを、GAS(Google Apps Script)経由でスプレッドシートに送信する。

    1.事前準備:ログを蓄積する「器」を整える

    まずは、AIが抽出したデータを確実に受け止めるためのスプレッドシートを準備します。

    ここでの項目名は、後にDifyの「パラメータ抽出」で定義する名前と一致させておくことで、管理がスムーズになります。

    【スプレッドシートの設定例】

    日付 社員名 モード 内容概要 スコア フィードバック概要
    2026/01/22 山田 太郎 ロープレ 製品の価格交渉 4 導入メリットの説明は完璧。クロージングがやや弱い。
    2026/01/22 佐藤 花子 質問回答 セキュリティ要件の確認 ISMSの定義について正しく理解できた。

    そして、Difyからの信号を受け取ってシートに書き込むためのGAS(Google Apps Script)を記述します。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術

    上図のようにスクリプトを用意することで、Difyで構築したAIメンターとスプレッドシートを連携させることができます。

    スプレッドシートとGASの準備ができたら、いよいよDify本体の設定に入ります。

    2.開始ノードの設定

    まず最初に行うのが、対話の入り口となる「開始ノード」のカスタマイズです。

    開始ノードは、ユーザーがAIメンターと対話を始める際に「どのような情報をあらかじめ渡すか」を定義する場所です。

    ここで設定した変数は、後のLLMの回答や、最終的なスプレッドシートへの記録に使用されます。

    まずは、開始ノードをクリックし、右側の設定パネルから以下の変数を追加します。

    user_name(テキスト)
    役割: 利用する社員の名前を取得します。
    目的: スプレッドシートに誰が利用したかを記録することができます。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術
    開始ノードの入力フィールドを編集している様子

    また、「難易度」や「モード」の選択肢を追加する場合も、開始ノードで設定します。

    例えば、「練習したい相手の属性」を「選択(Select)」形式で追加します。

    これにより、「部長」「現場責任者」「若手担当者」といった様々な立場の顧客との商談を練習することができるようになります。

    現代のOJTの新常識!?Difyで教育を「補完」する対話型AIメンターの構築方法を解説
    入力フィールドで「選択」を追加することで、ユーザが設定された項目から選択できるようになる。

    3.知識取得(RAG)ノードの設定

    知識取得(RAG)ノードの役割は、膨大な社内資料の中から、ユーザーの質問に対して自社のマニュアルに基づいた答えの断片を瞬時に探し出すことです。

    まず、あらかじめDifyの「ナレッジ」メニューで、製品の仕様書やFAQ、競合比較表などをアップロードしておき、このデータをRAGノードに紐付けます。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術
    知識取得ノードの設定画面。Difyの「ナレッジ」メニューからアップロードする。

    この知識検索の変数を、次の「LLMノード」の指示文に埋め込むことで、AIはアップロードされた情報の内容を踏まえた回答ができるようになります。

    4.LLMノードの設定

    次は、開始ノードで受け取った「ユーザーの意図」と、RAGで取得した「社内知識」を掛け合わせ、最適な回答を生成してもらうためにLLMノードの設定を行います。

    まず、コンテキストに知識検索ノードの結果を選択し、指示文(システムプロンプト)でRAGから取得した情報を参照するように設定します。

    そして、一つのノード内で「教育者(メンター)」と「ロープレ相手(顧客)」を演じ分けさせるために、以下のような指示を書き込みます。

    【プロンプトの構成例】

    あなたは製造業向けSaaS「匠の眼」の熟練OJT担当者です。
    開始ノードの {{#user_name#}} さんに対して指導を行います。

    【動作ルール】
    1. 質問されたら{{#context#}}の内容に基づき、専門用語を避けて回答してください。{{#context#}}以外の内容は書かず、わからない場合はわからないと書いてください。

    2. 「ロープレ」を依頼されたら、ユーザーが選択した相手の役職に合わせ、以下のスタンスを徹底してください。

    – 「部長級」が選択された場合:- 視点:経営・全社最適。コスト対効果(ROI)や「いつまでに投資回収できるか」を厳しく問う。
    – 口調:重みのある言葉遣い。「現場が混乱しないか」「会社全体として何が変わるのか」といった大局的な質問を好む。

    – 「現場責任者」が選択された場合: – 視点:運用効率・実現性。「現場の作業員が使いこなせるか」「既存の設備と干渉しないか」といった実務的な懸念をぶつける。
    – 口調:具体的で現実的。技術的な裏付けや、導入後のサポート体制を細かく確認する。

    – 「若手担当者」が選択された場合:- 視点:機能・使い勝手。UIの分かりやすさや、自分の業務がどれだけ楽になるかに興味を持つ。
    – 口調:丁寧だが、上司への説明のしやすさを気にする。「部長を説得できる資料はあるか」といった相談を持ちかけることもある。

    3. ロープレ中は、あなたは「顧客」として振る舞い、ユーザーの提案に対して厳しい質問や反論(コスト、精度、現場の手間など)を投げてください。

    4. ロープレまたは対話で「終了」というコメントが出たら、そこまでの内容をひとまとまりとして、以下のJSON形式でデータを出力し、最後に「[LOG_TRIGGER]」と付けてください。
       – mode: 「質問回答」または「ロープレ」
       – summary: 会話の要約
       – score: 5点満点の採点
       – feedback: 改善アドバイス

    質問をされたら知識検索ノードのナレッジを元に回答し、「ロープレ」を依頼されたらユーザーが選択した相手の役職に合わせてロープレを実施するという内容を書くことで、必要の応じた役割を果たしてくれます。

    5.「パラメータ抽出」ノードの設定

    LLMノードで設定したプロンプトでは、「JSON形式でデータを出力」という指定をしています。これは、スプレッドシートの「点数」や「要約」といった項目に振り分けるためです。

    しかし、まれに一つの長い文章(非構造化データ)として出力されてしまうことがありました。

    そこで「パラメータ抽出」ノードにより、LLMが生成した長い会話文の中から「スコア」「要約」「改善点」などの特定の情報だけを「構造化データ(変数)」として抜き出します。

    これにより、スプレッドシートの各セルにぴったりの情報を流し込めるようになります。

    以下のように、AIに抜き出してほしい情報を設定します。ここでの項目名は、スプレッドシートの列と対応させるのがコツです。

    変数名 データ型 抽出内容の指示(Description)
    mode String 現在の会話が「質問回答」か「ロープレ」かを判別して出力してください。
    summary String ユーザーとAIのやり取りの内容を、30文字程度で簡潔に要約してください。
    score Number ロープレの場合、新人の対応を1〜5の5段階で採点してください(質問回答時は0)。
    feedback String 新人が次に改善すべきポイントや、褒めるべき点を1つだけ具体的に抽出してください。

    6.HTTPリクエストによる自動記録

    最後に、抽出されたデータを外部へ飛ばす仕組みを構築します。

    HTTPリクエストノードは、Dify内部で処理されたデータを外部のシステム(今回はGoogle Apps Script経由のスプレッドシート)へ書き出すための「送信ボタン」の役割を果たします。

    メソッドは「POST」を選択し、事前にGASで「デプロイ」した際に発行されたウェブアプリのURLを貼り付けます。

    そして、パラメータ抽出ノードで切り出した変数を、GASが受け取れる「JSON形式」にまとめます。

    設定画面の「Body」セクションを「JSON」に切り替え、以下のように記述します。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術
    HTTPリクエストノードの設定画面

    これにより、AIとの会話が終わるたびに、スプレッドシートに「新人の成長ログ」が1行ずつ自動で書き込まれていく仕組みを構築することができます。

    「対話型AIメンター」を形にするDify構築術
    スプレッドシートのログが蓄積されている

    「対話型AIメンター」を設計する際のポイント

    最後に、「対話型AIメンター」を設計する上でのポイントを紹介します。

    指導方針の言語化(プロンプト設計)

    AIメンターの振る舞いを決定づけるのがLLMノードにおける「システムプロンプト」です。

    単一のキャラクターを固定する手法から、学習者のニーズに合わせて柔軟に変化させる手法まで、目的や教育フェーズに応じた複数の設計アプローチが存在します。

    ① 特定キャラクター固定型(高度なシミュレーション)

    今回は、相手の役職として三つのタイプの顧客を選択できるようにしましが、具体的な属性や性格、課題を持つ特定のキャラクターをAIに深く設定する手法もあります。

    例えば、「年齢」「役職」「性格(頑固、論理的など)」「抱えている悩み」「AIアレルギーがある」など、背景情報まで詳細に書き込みます。

    学習者は「実在しそうな手強い相手」と対峙することで、マニュアル通りの回答が通用しない現場のリアルを体験できます。

    この手法は、攻略すべきターゲットが明確で、かつ商談の難易度が高い業種や企業において、高い効果を発揮することが期待できます。

    特定のキャラクターを設定することで、エースはどうやって攻略したかというベテランの暗黙知をAIに反映できるほか、このキャラクターに合格をもらえれば、実際の現場に出ても大丈夫という、社内の基準として機能させることが可能になります。

    ② ユーザー選択・可変型(パーソナライズ学習)

    今回筆者が構築した、学習者がその日の学習目的や自身の習熟度に合わせて、AIの役割や難易度を選択できるようにする設計です。

    開始ノードで選択された変数に基づき、AIのトーンや反論の鋭さを動的に変化させます。

    この手法は、「扱う商材が多岐にわたる」あるいは「顧客の属性が幅広く、画一的な対応では通用しない」環境に適しています。

    また、性別、年齢、年収、ライフスタイルがバラバラな個人顧客を相手にする業種や、新人の習熟度の差が大きい場合にも適しています。

    構造化されたナレッジの投入

    AIメンターの指導方針を綿密に設計したとしても、参照するデータ(ナレッジ)が乱雑であれば、回答の精度は低下してしまいます。

    そのため、「AIが検索しやすい形に、人間が情報をあらかじめ仕分けしておく」ことが重要です。

    一般的な製品マニュアルや社内規定(PDF)は、人間が通読することを前提に作られています。

    しかし、AIのRAG(検索拡張生成)は、情報を「断片(チャンク)」として検索します。

    ページを跨いだ表や、文脈が複雑な文章をそのまま読み込ませると、AIは「情報の繋がり」を見失い、誤った回答や「分かりません」という回答を出す原因になります。

    そこで、AIが最も効率的に情報を引き出せる整理のコツを3つのカテゴリで紹介します。

    1.スペック・事実:数値と条件の明確化

    製品の仕様、価格、動作環境などは、曖昧さを排除したリスト形式で整理します。

    例えば、「対応OSはWindows 10以降です」と書くよりも、「項目:対応OS / 内容:Windows 10, 11 / 備考:Macは非対応」のように、項目と内容を1対1で結びつけることで、AIの検索精度が向上します。

    2.反論処理・FAQ:「問い」と「答え」のセット化

    営業現場で最も必要とされる「顧客の懸念に対する切り返し」は、一問一答の形式でナレッジ化します。

    例えば、 「価格が高いと言われたら、ROI(投資対効果)を説明する」という抽象的な指示ではなく、「質問(高い):導入費用がネックだ / 回答:1年で人件費削減により回収できる試算を提示し、無料診断を提案する」という具体的なスクリプトを登録します。

    3.事例・成功パターン:「状況」と「解決策」の紐付け

    「過去にどのような課題をどう解決したか」という定性的な情報は、タグ付けして整理します。

    例えば、「業界:金属加工 / 課題:ベテランの引退 / 解決策:匠の眼による検品自動化」といった属性情報を文頭に置くことで、新人が「金属加工のお客様の事例を教えて」と聞いた際に、AIが迷わず最適な事例を引用できるようになります。

    また、この「構造化されたナレッジ」の構築は、一度作って終わりにするのではなく、「価格が変わった」「新機能が追加された」といった際も、構造化されたリストの一部を書き換えてアップロードし直すことが重要です。

    その際、別々のアプリケーション同士をプログラミングなしで繋ぐiPaaS(Makeなど)を活用し、「Googleドライブの特定フォルダにファイルを置くだけで、Difyの知識が自動更新される仕組み」を構築します。

    現代のOJTの新常識!?Difyで教育を「補完」する対話型AIメンターの構築方法を解説
    iPaaSを活用したナレッジ自動同期のフロー。左から、Googleドライブの「フォルダ監視(ファイルの追加を検知)」、その中身の「ダウンロード」、そしてDifyへの「API送信」という3つのステップを構築している。

    これにより、担当者は変更された内容が記述されたPDFを共有フォルダに保存するだけで、iPaaSが自動で追加を検知し、API経由でDifyのナレッジへ反映してくれます。なお、iPaaSは「1時間ごと」など、システムが共有フォルダをチェックする時間をあらかじめ設定することができます。

    このように、情報を整理するプロセス自体が、自社の営業ノウハウや製品の強みを再定義することに繋がり、人間にとっても使いやすい「ナレッジベース」となります。

    「スコアリング」の多角化:評価の解像度を高める

    今回の構築例ではシンプルな「5点満点」の採点としましたが、もし自社独自の評価指標やチェックリストがある場合は、LLMノードの「指示(プロンプト)」に評価基準を具体的に書き込むことで、評価の解像度を高めることができます。

    例えば、自社の営業スタイルに合わせて「傾聴力」「提案のロジック」「クロージングの有無」といった独自の評価項目がある場合、プロンプト内で以下のように定義します。

    【プロンプトへの指示例】

    以下の自社評価基準に基づき、それぞれの項目を5段階で評価してください。
    [評価項目A]:マニュアルのルールを逸脱していないか
    [評価項目B]:顧客の課題を深く掘り起こせているか
    [評価項目C]:……(以下、自社の基準を列挙)」

    このようにLLMノードで多角的な採点を行わせるよう指示した上で、「パラメータ抽出」ノードを使ってそれらの数値を個別のデータとして切り出します。

    これをスプレッドシートに蓄積することで、「知識の正確性は高いが、顧客への共感度が低い」といった個人のスキルバランスが可視化されます。

    これにより、評価の解像度を高め、マネージャーの介入を最適化することができるでしょう。

    例えば、蓄積されたデータに基づき、「Aさんは提案のロジックは完璧だから、次は[評価項目B]の深掘りを強化しよう」といった、個人の特性に合わせた具体的なコーチングが可能になります。

    まとめ

    このようなシステムを構築することで、マネージャーは新人に対して「最近どう?」という抽象的な問いかけではなく、「昨日のロープレ、価格交渉で苦戦してたみたいだね。一緒に作戦を練ろうか」という、極めて解像度の高いフォローが可能になります。

    また、「新人の8割が、競合比較のフェーズでスコアが低い」「特定の製品仕様について何度も繰り返し質問している」といった全体の傾向を可視化することもできます。

    データに基づき、研修プログラムや資料をピンポイントで改善することで、教育全体の生産性を底上げし、標準化の促進が期待できます。

  • Dify×GASで契約書レビューからデータ蓄積・管理までを行う生成AIシステムの構築方法を解説

    Dify×GASで契約書レビューからデータ蓄積・管理までを行う生成AIシステムの構築方法を解説

    ビジネスにおいて、契約書のレビュー(リーガルチェック)は避けて通れない業務の一つであり、担当者は何十ページにも及ぶ難解な条文を確認しなければなりません。

    昨今、リーガルチェックを効率化するため、生成AIの活用が注目されていますが、いざ生成AIを実務のルーチンに組み込んでみると、「運用上の新たな課題」が浮き彫りになってきます。

    例えば、生成AIに役割や知識を役学習させても、実際の作業は依然として「人間による手動操作」に依存しています。契約書が届くたびに、担当者はチャット画面を開き、ファイルをアップロードし、解析を待つ必要があります。

    この「生成AIを動かすための手間」が案件数に比例して増大し、結局は担当者の時間を奪い続けるという状況が生まれてしまいます。

    実際、以前の記事では、GoogleのカスタムAIツール「Gem(Gemini)」を活用し、個人で手軽にリーガルチェックのアシスタントを構築しましたが、同様の課題が見えてきました。

    以前の記事はこちら:生成AIで契約書の「リーガルチェック」 知らないと損するGoogleのGem活用術

    この方法では、難しい設定が不要で、プロンプトで指示するだけで生成AIが契約書のリスクを指摘してくれます。

    しかし、実際に実務に導入しようとすると、毎回生成AIにファイルをアップロードして指示を送る手間に加え、生成AIの回答の管理、ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクがあることが分かりました。

    生成AIを「単発のツール」として使う段階から、「組織の安定した業務プロセス」として組み込む段階へ進むには、この「手間」と「不安」を解消しなければなりません。

    そこで本記事では、さらなる効率化と契約書の管理も同時に行えるように、AIアプリケーション開発のためのノーコード・ローコードプラットフォーム「Dify」とGoogle Apps Script(GAS)を組み合わせたシステムの構築方法を紹介します。

    一般的な契約書チェックの流れと、そこに潜む「3つの壁」

    まずは、「現実の業務フロー」と、そこに潜む構造的な課題について見ていきましょう。

    多くの企業において、契約書のリーガルチェックは概ね以下のようなステップで進められています。

    1. 1.受付・一次読解:取引先から届いた、あるいは自社で起案した契約書を最初から最後まで読み込み、全体像を把握する。
    2. 2.社内規定(ガイドライン)との照合:「損害賠償額の上限はあるか」「自動更新の条項は弊社ルールに反していないか」など、自社の基準と一字一句照らし合わせる。
    3. 3.リスクの抽出と修正案の作成:リスクがある箇所を特定し、相手方に提示するための修正案(カウンター)を準備する。
    4. 4.最終確認と決裁:法務担当者や責任者が最終的な判断を下し、締結のGOサインを出す。

    一見するとシンプルな流れですが、この「当たり前」のプロセスの中には、現場を疲弊させる「3つの大きな壁」があります。

    ①時間と精度の「トレードオフ」

    契約書は、読めば読むほど時間がかかります。しかし、ビジネスの現場では「明日までに締結したい」というスピードが求められます。

    急いで読めば見落としのリスクが高まり、丁寧に読めば事業のスピードを止めてしまう。このジレンマが、常に担当者の肩に重くのしかかっています。

    ②判断の「属人化(バラつき)」

    チェックする人の経験値やその日の体調によって、「どこまでをリスクと見なすか」の基準が微妙にズレることがあります。

    AさんはOKと言ったのに、B部長はNGと言う。こうした判断のバラつきは、社内のコミュニケーションコストを増大させ、組織としての意思決定を不透明にします。

    ③「見えないもの」を探すストレス

    契約書チェックの最も過酷な点は、「書かれていること」だけでなく、「本来書かれているべきなのに、書かれていないこと」を見つけ出さなければならない点です。

    反社条項が抜けていないか、必要な免責事項が漏れていないか。この「欠落」を探す作業は、人間の脳にとって極めて負荷の高い、神経をすり減らす作業です。

    こうした「人間ならではの限界」を補うために生成AIは非常に有効ですが、だからといって「すべてをAIに任せて自動化すれば解決」とはいかないのが、法務という分野の難しいところです。

    次の章では、生成AIの可能性を認めつつも、なぜ「生成AIの判断をそのまま信じてはいけないのか」というリスクについて紹介します。

    なぜ「生成AIの判断」をそのまま信じてはいけないのか?

    生成AIは、「定量的・網羅的な処理」を得意とします。

    そのため、数十ページに及ぶ契約書であったとしても、数秒で内容をスキャンし、主要な論点を整理します。

    また、疲労や主観に左右されることなく、設定された基準に基づいて、全ての条文を均一な精度でチェックし続けることができます。

    このように、生成AIは法務業務の「一次受け」として、人間の脳にかかる負荷を劇的に軽減する力を秘めています。

    しかし、こうした目覚ましい進化の一方で、生成AIに全権を委ねることは現時点では極めてハイリスクです。その理由を3つのポイントで整理しました。

    「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」の存在

    一つの目の理由は、生成AIは統計的に「もっともらしい言葉」を繋ぎ合わせる「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクがあるという点です。

    時には存在しない法律を引用したり、条文の意味を真逆にとらえたりすることがあります。

    100回中99回正しくても、残りの1回で致命的な嘘をつく可能性があるため、生成AIをそのまま「決裁者」にすることはできません。

    「自社固有の事情」を汲み取れない

    また、生成AIは一般的な法律知識は持っていますが、「今回の取引先とは10年来の付き合いだから、この条項は多少緩めてもいい」「この事業は我が社の命綱だから、知財条項だけは一歩も引けない」といった、個別のビジネス背景やリスク許容度までは把握できません。

    「RAG(検索拡張生成)」という技術を使えば、自社の法務ガイドラインや過去の修正履歴をAIに「知識」として読み込ませることは可能です。

    しかし、RAGで補えるのはあくまで「過去のデータ」や「形式的なルール」です。

    「ルールには反しているが、この契約を逃さないためにあえてリスクを飲む」という攻めの経営判断や、相手方とのパワーバランスを考慮した最終的な「落としどころ」の決定は、責任を負うことができる人間にしか下せない決断です。

    責任の所在が曖昧になる

    万が一、生成AIの判断ミスによって契約トラブルが発生した際、生成AIが責任を取ることはできません。

    最終的に会社を守り、責任を負うのは常に人間です。プロセスの中に「人間が確認した」という事実がない自動化は、コンプライアンスの観点からも非常に危険です。

    人間介在型で自動化するための構成

    上記のようなリスクを回避するためには、「Human-in-the-Loop(人間介在型)」という設計思想が重要になります。

    これは、「生成AIに下書き(分析)をさせ、人間が最終判断(承認)を下す」というサイクルをシステムの中に組み込むことを指します。

    生成AIが、膨大な条文の中からリスクがありそうな箇所をピックアップするという役割を果たし、人がピックアップされた場所を確認することで、自社のルールに照らして「GO」か「NG」かを判断するという流れを作ります。

    今回は、「解析」「実行」「管理」といった役割に対し、それぞれ「Dify」「GAS」「スプレッドシート」という3つのツールを組み合わせて構成しています。

    解析・判断エンジン(Dify)

    Difyは、システムにおける「知能」の部分を担います。単に生成AIに質問を投げるだけでなく、自社の法務ルールや過去の契約事例(ナレッジ)を生成AIに読み込ませ、それに基づいて条文を精査するRAG(検索拡張生成)の実行エンジンです。

    一貫した基準で「解析」を行うことで、担当者による判断のバラつきを抑えます。

    システム間の接続と処理の実行(GAS)

    Google Apps Script(GAS)は、異なるツールを繋ぎ合わせ、一連の動作を完結させる「自動化の司令塔」の役割を果たします。

    Googleドライブ内のファイルを検知し、Difyへデータを送り、返ってきた結果をスプレッドシートへ流し込む。この「実行」と「外部連携」を担うことで、人間が介在しなくても業務が回る仕組みを作ります。

    データ蓄積・管理インターフェース(スプレッドシート)

    スプレッドシートは、全ての「データの蓄積」と、人間が最終判断を下すための「ユーザーインターフェース」の役割を果たします。

    生成AIの解析結果がデータベースとして蓄積されるため、過去の傾向分析も容易になります。

    また、チェックボックスという馴染みのある形式で「人間による最終承認」を行うことで、安全性を担保します。

    人間介在型のリーガルチェック自動化システムの構築方法

    ここからは、実際に構築したシステムを詳しく解説していきます。

    プログラミングの知識がなくても、それぞれのツールの役割を理解すれば、パズルのように組み上げていくことが可能です。

    土台となるGoogleエコシステムの準備

    まずは、すべての入り口となる「Googleドライブ」と、管理画面となる「スプレッドシート」を整えます。

    Googleドライブ内には、生成AIに読み込ませたい契約書をアップロードするための専用フォルダを一つ作成します。

    このフォルダの「ID(URLの一部)」が、後ほどシステムを繋ぐための住所になります。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    Googleドライブ内に作った専用のフォルダ

    次に、スプレッドシートを用意します。ここには「ファイル名」「判定結果」「指摘理由」といった項目を並べ、「承認」ボタン(チェックボックス)も配置します。

    また、「ファイルID」を記録する列も必要となります。ファイルIDとは、生成AIが同じファイルを二度読みすることを防ぐためにあり、人が確認する必要はないため、この列は非表示にしておくと誰が使っても混乱がなくなります。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    作成したスプレッドシート。G列にファイルIDが記録されているが、非表示にしている。

    Difyで「生成AIの思考プロセス」を設計する

    次に、今回のシステムの「知能」にあたるDifyの設定に移ります。

    新たにワークフローを作成し、「開始(契約書本文の受け取り)」→「LLM(分析)」→「出力(結果の整理)」というパイプラインを構築します。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    Difyで構築するワークフロー

    今回のLLMノードのプロンプト(指示文)では、「あなたは一流の企業法務担当者です」という役割を与えた上で、出力形式を「JSON」というプログラムが読み取りやすい形式に指定することで、スプレッドシートの各セルへ正確に情報を流し込めるようにしました。

    設定したプロンプト
    あなたは一流の企業法務担当者です。入力された文章を分析し、以下の項目を厳密にチェックしてください。

    反社会的勢力排除条項の有無
    自動更新の有無と通知期限
    損害賠償額の制限(弊社に著しく不利でないか)

    出力形式(重要): 必ず以下のJSON形式だけで回答してください。
    {
    “judgment”: “要確認 または 問題なし”,
    “reason”: “具体的なリスク箇所と理由”,
    “summary”: “契約書の概要”
    }

    設定が終わったら「公開」ボタンを押し、外部から呼び出すための「鍵(APIキー)」を発行します。

    なお、RAGを活用して「自社の法務ガイドライン」や「過去の修正事例」をAIに学習させる場合、Difyのトップ画面から「ナレッジ」タブを開き、アップロードします。Difyがこれらを自動で解析し、生成AIが検索可能な「知識データ」に変換してくれます。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    Difyのナレッジベースへのアップロード画面

    そして、ワークフローのLLMノードの前に「知識検索」ノードを配置し、アップロードしたナレッジベースを選択します。

    そして、LLMノードの入力パラメーターに「コンテキスト(context)」として知識検索の結果を紐付け、プロンプト内で参照するように指示することで、生成AIは契約書を読み取る際、ナレッジベースの知識を参照した上で分析してくれるようになります。

    ただし、ナレッジベースに何でもかんでもアップロードしてしまうのは禁物です。

    不要な情報や古い事例、あるいは矛盾するガイドラインが混ざってしまうと、生成AIがどの情報を優先すべきか判断できずに混乱し、かえって分析精度を落とす可能性があるからです。

    生成AIの回答を安定させるには、情報を適切に切り分ける「チャンク(分割)」の最適化やデータの取捨選択といったテクニックが必要になります。

    このテクニックについては、別の記事で紹介したいと思います。

    GASという「見えない司令塔」を動かす

    次に、ツール同士を繋ぐ架け橋として、Google Apps Script(GAS)で、スクリプト(自動実行される業務手順書)を記述します。

    この時、APIキーやフォルダIDを正しくセットしておくことで、一切の手動操作なしに「ドライブに置く→シートに結果が出る」という連携が実現します。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    GASに記述したスクリプト

    また、GASからPDFやWordを解析するために、GASエディタの「サービス」から「Drive API」を追加しておく必要があります。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    GASエディタの「サービス」から「Drive API」を追加する。

    これにより、GASの実行ボタンを押すと、Googleドライブに新たな契約書がないかを確認し、あれば自動的にDifyへと中身を送信します。

    Difyは先ほど指定したプロンプト通りに内容を分析して、GASに結果を送ります。

    GASはDifyから返ってきた分析結果を受け取ると、それをスプレッドシートの新しい行に書き込みます。

    なお、毎回GASの画面を表示するのが面倒な場合は、スプレッドシートの図形描画から◯などの記号を挿入し、スクリプトを割り当てることで、描画した図形をクリックするという操作で上述した一連の流れを実行することもできます。

    AIで法務の工数を激減させる「契約書レビュー自動化システム」の構築方法を解説
    スプレッドシートに描画された実行ボタン

    これにより、契約を行なった担当者は指定されたGoogleドライブのフォルダに契約書をアップロードし、契約書をチェックする法務の担当者は毎日ボタンを押して更新された契約書の内容を確認するという業務フローを構築することができます。

    法務の担当者は、全ての契約書の一言一句を確認することなく、生成AIが指摘した箇所を重点的に確認することで、契約書レビューの工数を削減することができるでしょう。

    まとめ

    いかがでしたでしょうか?

    Gemの設定と比べると少し複雑に感じますが、それぞれの役割を理解し、適切に連携さえすれば、誰でも自然言語のみで構築することができます。

    他にも、Difyのワークフローの最後に「Slack通知」のノードを追加すれば、解析が完了した瞬間に担当者へメッセージを飛ばすことも可能です。

    今回の記事を参考に、自社の業務フローに合わせて応用していただければ幸いです。

  • 顧客の声を生成AIで活用できる資産へ、ボタンひとつで分析するシステムの構築方法を解説

    顧客の声を生成AIで活用できる資産へ、ボタンひとつで分析するシステムの構築方法を解説

    カスタマーセンターには、「製品への期待」「操作への戸惑い」「叱咤激励」など、顧客からの貴重な声が届いています。

    これらの声は、サービスをより良くするための手掛かりとなり得ますが、多くの現場では、日々の応対を記録すること自体がゴールになってしまい、その先の「分析」や「改善」まで手が回っていないのが実情です。

    そこには、「記録の仕方が部署や担当者によってバラバラで、集計しようがない」 「自由記述のテキストデータが膨大すぎて、読み込む時間がない」 「システムを改修してデータを構造化するには、膨大なコストと月日がかかる」といった、カスタマーセンター特有の切実な事情があります。

    結果として、せっかくの声がExcelやCRMの中に「眠ったまま」の状態になっているケースは少なくありません。

    そこで本記事では、分析が進まない障壁を踏まえた上での生成AIの価値に加え、実際に簡易的にできる表計算ソフトを活用した分析や、ボタンひとつで分析を行なってくれるシステムの構築方法を紹介します。

    なぜ「既存の記録」の分析が進まないのか

    顧客の声(以下、VOC)の分析が停滞してしまう要因は、主に3つの「障壁」があると考えられます。

    これらが積み重なることで、カスタマーセンターのデータは「活用できる資産」ではなく、単なる「ログの蓄積」になってしまいます。

    表記ゆれと粒度のバラつき

    最も大きな壁は、入力される情報の「不揃いさ」です。

    同じ「ログインできない」というトラブルでも、ある担当者は「ログイン不可」と書き、別の担当者は「IDエラーにより接続不可」と記録します。

    また、一言だけ「操作の質問」と書く人もいれば、経緯を詳細に書き込む人もいます。

    このようにデータの粒度や表現が統一されていないため、従来のキーワード検索や単純な集計では、全体像を正しく把握することが困難となります。

    「構造化」にかかる膨大なコスト

    データを分析可能な状態にするには、一つ一つの応対記録に対して「これは機能不全」「これはUIへの不満」といったタグ(分類ラベル)を付ける「構造化」の作業が必要です。

    しかし、これを手作業で行うには、膨大な工数がかかります。

    そのため、分析のために専用の分析システムを導入しようとすると、要件定義や予算確保に数ヶ月〜数年かかることも珍しくありません。

    結局、日々の業務に追われ、「いつか時間ができたらやろう」と後回しにされてしまうのです。

    「とりあえず保管」という思考停止

    多くの現場では、CRM(顧客管理システム)やExcelへの入力が「業務報告」としての役割しか果たしていません。

    「何件対応したか」という件数の集計はできても、「どのような問い合わせが多いのか」「なぜその問い合わせが起きているのか」というインサイトまで踏み込んだ分析は、個々の担当者の記憶や直感に頼らざるを得ないのが実情です。

    結果として、特定部署だけが把握している「深刻な不満」が、全社的な改善案として吸い上げられないという機会損失が発生しています。

    これらの障壁は、これまでは「地道な手作業」か「高額な投資」でしか乗り越えられないものでした。

    しかし、次章で解説するように、生成AIはこの「バラバラで不揃いなデータ」をそのままの形で受け入れ、価値ある情報へと変換してくれます。

    生成AIがもたらす「分析」のパラダイムシフト

    次に、生成AIがどのようにして前章で挙げた「バラバラなデータ」の壁を打ち破るのかを解説します。

    これまでのデータ分析といえば、「文章の中に『動かない』『エラー』という言葉があれば、一律で『不具合』にカウントする」というように、あらかじめ決められたルールに基づいて機械的に処理する「統計的な手法」が主流でした。

    しかし、生成AIの登場により、カスタマーセンターに眠る「生の文章(非構造化データ)」の扱い方は変わりました。

    生成AIが分析プロセスにもたらす変革には、主に3つのポイントがあります。

    「文脈」を理解し、表記ゆれを飲み込む

    生成AIの最大の特徴は、言葉の「意味」や「文脈」を理解できることです。

    従来のシステムでは「ログインできない」と「サインイン不可」は別物として扱われ、人間が事前に「これらは同じ意味である」と定義する必要がありました。

    しかし生成AIは、文言が違っても「接続に関するトラブルである」と柔軟に解釈します。

    これにより、担当者ごとに書き方がバラバラなExcelデータであっても、事前の整理なしにそのまま分析にかけることが可能になりました。

    膨大なテキストを「一瞬で要約・分類」する

    数千件、数万件におよぶ応対記録を人間が読み込むには、膨大な時間と精神的なエネルギーを要します。

    生成AIを使えば、それらの記録を瞬時にスキャンし、「何についての不満が多いのか」を重要度順にリストアップしたり、ポジティブ・ネガティブといった「感情分析」を自動で行ったりすることができます。

    「なんとなく操作性が悪いという声が多い気がする」という現場の肌感覚を、具体的な根拠へと変換することができます。

    「仮説」を一緒に立てるパートナーになる

    生成AIは単に分類するだけではありません。

    「最近、Aという製品で『使いにくい』という声が増えているようだけど、具体的にどの操作ステップでつまずいているか分析して」 といった問いかけに対し、AIは膨大な記録の中から共通のボトルネックを探し出し、改善案のヒントを提示してくれます。

    分析の専門知識がなくても、対話を通じて「顧客の不満の核心」にあたりをつけることができます。

    表計算ソフトで簡易的に分析する

    では実際に、生成AIを使って具体的にどのように分析を進めていくのか、そのステップを詳しく見ていきましょう。

    まずは、表計算ソフトであるGoogleスプレッドシートやExcelに搭載されている生成AIを活用することで、VOCを簡易的に分析する方法を解説します。なお、この方法は、Googleのサブスクリプションに契約することで利用することができます。

    前述したように、生成AIは文章の意味を読み解いて分類することはできますが、「どの列が日付で、どの列が顧客の声か」という構造がバラバラだと、情報の紐付けを間違えてしまいます。

    特に、データ量が膨大になってくると、生成AIが全ての情報を等しく処理しようとして膨大な計算リソースを消費し、結果として分析の焦点がぼやけたり、処理が途中で止まるエラーを引き起こしたりする可能性があります。

    そこで、表計算ソフトに担当者が記入する際、生成AIが分析しやすいデータ構造に整える必要があります。

    具体的には、1行目(ヘッダー)に、以下のように項目を分け、これに沿って入力してもらうようにします。

    項目名 生成AIにとっての役割
    ID 各問い合わせを識別するための背番号。重複を防ぎます。
    Date Time 発生時期の特定。アップデート前後などの「傾向の変化」を分析するのに不可欠です。
    Customer ID 特定の顧客が何度も不満を抱いていないか、ロイヤリティへの影響を測ります。
    Category 「操作方法」「不具合」など。生成AIが定量的な集計(グラフ化など)をする際の基準になります。
    Agent Name 担当者ごとの負荷や、対応品質の偏りを分析する指標になります。
    Priority 緊急度の判定。生成AIが「最優先で改善すべき課題」を絞り込む際に参照します。
    Description 最も重要です。 顧客の生の声(VOC)をそのまま入力します。生成AIはこの文章から真の課題を読み取ります。

    ある程度データが溜まったら、サイドパネルにあるGeminiアイコンをクリックすることで、チャット欄が表示されます。このチャット欄に、直接対話形式で分析を依頼することで、簡易なレポートを生成してくれます。

    表計算ソフトで簡易的に分析する
    Googleスプレッドシートのサイドパネルのチャット欄

    例えば、「このシートにある応対メモを分析して、顧客の不満を多い順に3つのカテゴリーで要約して。それぞれの発生件数も教えて。」と入力すると、表や自然言語で分析結果を示してくれます。

    表計算ソフトで簡易的に分析する
    Geminiの回答

    この結果を受け、さらに「1位の不満において、特にどのキーワードに関連する声が一番多いか、さらに細かく内訳を教えて」と指示すると、キーワードごとの内訳を分析してくれます。

    表計算ソフトで簡易的に分析する
    UI/操作性という不満カテゴリーの詳細なキーワードの内訳を示している

    これにより、現状の課題や何を優先的に解決すべきかといった判断の足がかりにすることができます。

    ボタンひとつで分析を行なってくれるシステムの構築

    次に、ノーコード・ローコードで生成AIアプリケーション開発ができる「Dify」を活用し、ボタンを押すだけで同様の分析を行なってくれるシステムを構築してみます。

    Difyでのワークフロー構築

    まず、Difyのワークフローを新規作成し、4つのノードを連結させて構築します。

    Difyを活用したシステムの構築
    ワークフローの全体像

    始まりは、「ユーザー入力」ノードから始まり、「BATCH GET」ノードによりGoogleスプレッドシートと連携します。「BATCH GET」ノードは、指定したスプレッドシートの範囲を、生成AIが処理可能なテキスト形式で一括取得します。

    取得したデータは「LLM」ノードへと渡され、専門のアナリストとして分析を行ってもらいます。

    生成AIがデータを正確に読み解くためには、LLMノードへの「指示書(プロンプト)」設定が重要になります。

    具体的には、「BATCH GET」ノードで取得した変数を生成AIが参照できるよう「コンテキスト設定」で紐付けた上で、システムプロンプトに具体的な役割と指示を書き込みます。

    [プロンプト内容]

    あなたはプロのデータアナリストです。
    変数 {{text}}に格納された大量の応対記録を読み取り、以下の4つのステップで分析を完結させてください。

    1. 【全体傾向の要約】
    全件の中から「不満」に関連する声を抽出し、「UI・操作性」「不具合」「要望」の3カテゴリで件数(目安)を集計してください。

    2. 【アップデート影響の特定】
    11月のアップデートに関連する「画面の使いにくさ」「スクロール量」「ボタン配置」への不満が、全不満の中でどの程度の割合を占めているか特定してください。

    3. 【具体的な不満内容の抽出】
    特に深刻、または頻出している顧客の生の声を3つ、原文のニュアンスを維持してピックアップしてください。

    4. 【改善アクション案】
    分析結果に基づき、開発チームが来週から着手すべき具体的な製品改善案を2点提案してください。

    # 制約事項
    – 出力はスプレッドシートへの貼り付けを想定し、箇条書きで簡潔にまとめてください。
    – 専門用語は避け、現場の担当者が理解しやすい言葉を使ってください。

    最後に、生成AIが生成したレポートを「終了(出力)」ノードを通じて、再びGoogleスプレッドシートへと戻される仕組みを構築しています。

    Googleスプレッドシートとの連携

    なお、上述したDifyのワークフローは、Googleスプレッドシートとの連携によって完成します。

    まず、Googleスプレッドシートの内容をDifyに渡すため、Google Apps Script(以下、GAS)を用いた自動起動の設定を行います。

    具体的には、Googleスプレッドシートの拡張機能からスクリプトエディタを開き、Difyと通信するためのプログラムを記述します。

    なお、このプログラム内には、Difyの管理画面で発行した専用の「APIキー」を組み込んでいます。このAPIキーにより、パスワードのような役割を果たし、外部から安全に自作のAIワークフローを呼び出す「API連携」が確立されます。

    次に、スプレッドシート上に図形描画機能を使って「AI分析実行」というボタンを作成し、先ほど作成したスクリプトを割り当てます。これにより、複雑なコード画面を開くことなく、ボタンをクリックすることでDifyへ分析指示が飛ぶようになります。

    Difyを活用したシステムの構築
    Googleスプレッドシートの図形描画機能を使って作成した実行ボタン

    通信が始まると、GASはGoogleスプレッドシートの内容をDifyに送り、Dify側で生成AIが分析を実行します。

    分析が完了すると、生成AIの回答データがGASに送り返されますが、スクリプト内で「〇〇セルに書き込む」という命令を構成しておくことで、分析結果が自動的に指定したセルへ流し込まれます。

    Difyを活用したシステムの構築
    指定したセルに書き込まれた分析結果

    この一連の流れにより、担当者がボタンを押すことで、顧客の声を整理した上での改善案を含めたレポートを受け取ることができます。

    生成AIを活用する上での注意点

    このように、生成AIを活用することで、簡易的な分析をすぐに行うことができます。

    ただし、生成AIは万能ではないため、以下の点で注意が必要となります。

    個人情報・機密情報の取り扱い

    最も注意すべきは、データのセキュリティです。生成AIに読み込ませるVOCの中に、顧客の氏名、電話番号、住所などの個人情報や機密情報が含まれていないかを確認してください。

    これはシステム側の設定以前に、「入力する担当者が、最初の段階で個人情報を書き込まない」という意識を持つことが対策となります。

    例えば、入力時に「田中様」を「顧客A」に、「090-xxxx」を「電話番号」と置き換えるなど、担当者がその場でマスキングを行うルールを徹底しましょう。

    分析に必要なのは「どのような不満や要望があるか」という文脈です。内容に関係のない契約番号や詳細な住所などは、入力の段階で除外するよう運用を整えます。

    また、利用する生成AIの規約を確認し、入力データが学習に利用されない設定を選択することも重要です。

    ハルシネーションへの理解

    生成AIは非常に説得力のある文章を作成しますが、時には事実とは異なる内容を生成することがあります。

    そのため、生成AIが算出した「件数」や「特定の事例」が正しいかどうか、最終的には必ず人が確認する工程を設けたほうがいいでしょう。

    また、生成AIは「傾向の把握」には非常に強力ですが、厳密な数値の正確性を求める際は注意が必要です。

    リソース制限とコストの管理

    大量のデータを一度に処理しようとすると、生成AI側の利用制限に達し、エラーが発生することがあります。

    そこで、大規模なデータを扱う場合は、100件〜500件単位で分割して実行するワークフローを組むなど、エラーを回避するための工夫が必要です。

    また、高性能なモデルを頻繁に利用するとコストが高くなる場合があるため、用途に合わせて軽量なモデルと使い分けるなどの対策を取りましょう。

    こうした点に注意し、生成AIをうまくすることで、顧客応対が単なる記録で終わらず、製品開発やサービス品質の向上へと繋げることができるでしょう。

  • SNS運用をAIで内製化するには?カスタムAIとノーコードツールで効率化する方法を解説

    SNS運用をAIで内製化するには?カスタムAIとノーコードツールで効率化する方法を解説

    企業におけるSNSの活用は、顧客との接点を作り、企業の利益につなげる可能性を秘めた重要な施策です。

    しかし、SNS運用を任された担当者は、コンテンツを作るためには、毎日のように流れてくる膨大なニュースを巡回し、その中から自社のターゲットに刺さるネタを選別する必要があります。

    さらに、それを各プラットフォームの特性に合わせて具体的な投稿案にまで落とし込み、ユーザーとのコミュニケーション、コメントへの返信、効果測定など業務が多岐にわたり、担当者のリソースは常に逼迫し、工数過多の状態に陥りがちです。

    こうした状況を打破しようと外部の専門業者に運用代行を依頼すればコストがかかるため、「自社で高品質な運用を内製化したい」という企業が多いのではないでしょうか。

    そこで本記事では、SNS運用を任された担当者の方がクリエイティブな時間を捻出するためにも、AIを活用して効率化するためのヒントを紹介します。

    SNS運用の4つの基本ステップ

    まずは、どこを自動化し、どこに人間が注力すべきかを明確にするためにも、SNS運用の一連の流れを「作業工程」として分解します。

    ここでは、SNS運用を4つのステップに分けて考えてみます。

    Step 1:情報収集・リサーチ

    SNSの成否はリサーチの質で大きく左右されますが、毎日複数のニュースサイトや競合の投稿を巡回するのは、担当者にとって時間がかかる能動的な作業です。

    情報収集の本質は、単に最新情報を知ることではなく、「自社のターゲットが今、何に価値を感じているか」という兆しを掴むことにあります。

    そこで、情報の「網羅性」と「速報性」を担保しつつ、AIに一次情報の選別を任せることで、担当者は「集まった質の高い情報」をどう解釈するか、という高度な知的作業に集中できるようになります。

    Step 2:企画・ネタ出し

    収集した一次情報を、自社のアカウントならではの「視点」に変換するプロセスです。

    AI時代のSNS運用において、情報の転送だけでは価値が生まれにくく、読者はその情報が「自分たちにどう関係し、どう役立つのか」という独自の解釈を求めています。

    このステップの本質は、既存の枠組みに囚われない「切り口の多様性」を確保することにあります。

    そこで、AIに特定の役割や専門性を持たせ、ベテランマーケターのような視点で思考のタタキ台を量産させます。

    これにより、担当者はゼロから切り口を考えるのではなく、AIとの対話を通じて企画をより鋭く磨き上げるという、クリエイティブな意思決定が可能になります。

    Step 3:コンテンツ制作

    確定した企画案を、各プラットフォームに最適化されたコンテンツとして制作する工程です。

    どんなに優れた企画も、最初の3秒で惹きつけるキャッチコピーや、スマホ画面でストレスなく読めるデザインがなければ、ユーザーを惹きつけることはできません。

    このフェーズの課題は、制作に時間をかけすぎて旬を逃してしまうことです。

    そこで、AIに構成案や動画の台本、複数のキャッチコピー案を生成させ、それをCanvaなどのデザインツールと組み合わせる手法が有効です。

    「0から1を作る」苦労をAIに任せ、人間は「1を100にする」ブラッシュアップとクオリティ管理に徹するという役割分担が効率化の鍵です。

    Step 4:投稿・分析

    投稿はゴールではなく、次の企画のための「実験結果」です。インプレッション数、保存数、エンゲージメント率といった数値を、単なる事務的な報告書として終わらせてはいけません。

    真の分析とは、「なぜこの記事は保存されたのか?」「なぜこのキャッチコピーはクリックされなかったのか?」という仮説の検証です。

    伸びた投稿のパターンを言語化し、それを再びStep2の「企画AI」にフィードバックする。このサイクルを回し続けることで、アカウント全体の知見が蓄積され、運用は回を追うごとに精度を増していきます。

    自動化された収集と企画の仕組みがあるからこそ、担当者はこの「戦略的な振り返り」に最も多くの時間を使えるようになります。

    自動化するべき工程を決定することの重要性

    上述した一連のステップは、Difyなどのノーコード・ローコードツールを駆使することで、完全に自動化することも可能です。

    しかし、AIが収集した情報が取り上げるトピックとして適切か、企画やネタが読者に刺さるものかどうかを投稿前に確認しなければ、誰にも届かない投稿がアップされ続けるという状況に陥ってしまいます。

    また、コンテンツ制作は、短いテキストであれば一連の流れで自動化することができるかもしれませんが、構造的に整えられた長文や動画と文章の組み合わせなど、複雑な処理を一度で実行するのはかえって修正の手間がかかってしまう可能性もあります。

    さらに、AIはハルシネーションやエラーのリスクを常に抱えているため、すべての工程を確認なしで自動化するのはリスクが大きいのが実情です。

    そのため、SNS運用のワークフローの中において、どこで人が判断するべきかを決める必要があると考えます。

    今回は、情報収集と企画やネタのアイディア出しを自動化し、最終的なトピックの選定やコンテンツの制作は人が行うこととします。これにより、効率化と品質の担保の両立を目指します。

    なお、ステップ3のコンテンツ制作と、Step4の投稿・分析は、どのSNSプラットフォームを活用するかによって変わるほか、ステップ3,4それぞれにさらなる膨大な工程が存在するため、今回の記事では割愛しています。

    情報の収集と選別を自動化する

    ではまず、Step1の情報収集・リサーチを効率化するために、Webサイトの更新情報を自動的に配信してくれるRSSとの連携が標準で搭載されているノーコード自動化プラットフォーム「Make(旧Integromat)」を活用し、SNS運用の効率化を目指します。

    今回構築するのは、特定のニュースサイトから最新情報を取得し、AIが「自社のアカウントにとって投稿価値があるか」を判断した上で、通知までを一気通貫で行う仕組みです。

    まずは、きっかけとなる「トリガー」として、RSSフィードやWebスクレイピングを用い、特定サイトの更新を自動検知するように設定します。

    実行タイミングは「毎日10時」といった時間指定や、特定の曜日を指定することで、ルーチンワークとして実行されるようになります。

    情報の「収集・選別」を自動化する
    トリガーの時間設定画面

    次に、AIノードにて、サイトからのニュースデータを分析し、ニュースのピックアップをしてもらいます。

    そして、そのニュースに含まれるトピックと業界への影響、読者にとっての重要度、SNS投稿の切り口を出力させます。

    情報の「収集・選別」を自動化する
    AIノードの設定画面

    ピックアップしたニュースと指定した出力結果は、Gmailにて通知してもらう仕様としました。

    これにより担当者は、届いたメールを確認することでその日の投稿ネタを考えることができます。

    情報の「収集・選別」を自動化する
    Gmailに送られてきた結果

    このワークフローを導入することで、担当者は「ネタを探しに行く」という能動的な作業を効率化することが可能となります。

    企画・ネタ出しの自動生成

    情報を収集したら、Step2の企画・ネタ出しを行います。

    ここでは、Geminiにおける特定のタスクに特化させるためのカスタムAIアシスタント機能「Gem」を活用し、特定の役割と制約を学習させた「ネタ出しAIアシスタント」を構築することで、SNS運用の企画業務を効率化します。

    今回は、IoTNEWSがSNS運用を行うと仮定し、「AIの役割と制約」「実行して欲しいタスク」「出力形式」を定義しました。

    AIによる「企画・ネタ出し」の自動生成
    Gemの設定画面

    以下が、SNS「企画・ネタ出し」Gemで設定したカスタム指示です。

    【システム設定:AIの役割と制約】

    あなたは「IoTNEWS」のSNS運用チームに所属する、親しみやすいトーンのベテラン企画担当マーケターです。

    [専門知識と視点]

    IoT、AI、DX、SaaSといったB2B技術トレンドに関する深い知識を持ち、市場の動向をデータドリブンな視点で分析します。

    企画は常に「IT技術者およびビジネス層」の課題解決に繋がる実用的な内容であることを最優先とします。

    [トーンと行動規範]

    トーン: 常に親しみやすく、かつプロフェッショナルなトーンを保ちます。

    言葉遣い: 専門用語を使用する際は、必ず一般のビジネス層にも分かりやすいように簡潔に解説を加えます。

    制約: 感情的な表現は避け、提案は必ず具体的な分析データ(もし入力された場合)または市場の洞察に基づいていることを示します。

    【メインプロンプト:SNSネタ出しタスク】

    このタスクは、以下の【分析対象】に基づき、弊社のSNSアカウントで利用するための、効果的で実践的な投稿企画案を提案することです。

    1. 分析対象(データまたはテーマ)

    ↓↓↓
    [パターンA:競合の成功投稿]
    競合の成功投稿の「投稿テキスト」と「いいね数」

    [パターンB:テーマ指定]
    企画案を作成したい特定のIoT/AIトレンドのテーマやニュース
    ↑↑↑ ここまでが分析対象です。 ↑↑↑

    2. タスク(具体的依頼内容)

    成功要因分析/テーマ洞察 (3点):

    【パターンAの場合】インプットデータから、投稿が成功した核となる要因を3点に絞って分析してください。この3点のうち、最低2点はクリエイティブ要素(キャッチコピー、画像・動画の構成、デザイン、視覚的訴求力)に関する分析とすること。

    【パターンBの場合】指定されたテーマについて、読者の関心を引く核となる切り口を3点に絞って提示してください。

    応用企画案提案 (2案):

    分析/洞察に基づき、弊社の親しみやすいトーンで応用可能なSNS投稿企画案を2案、具体的に提案してください。

    【企画案A】: 動画プラットフォーム(例:リール、TikTok)での利用を前提とした企画。

    【企画案B】: テキスト/アンケート機能(例:X, LinkedIn)での利用を前提とした企画。

    キャッチコピー提案 (各3パターン):

    提案した企画案AおよびBに対し、投稿のサムネイル用または冒頭文に使用するキャッチコピーを、それぞれ3パターンずつ提案してください。

    推奨ハッシュタグ:

    各企画案のテーマに最も適したトレンド性、専門性、汎用性のバランスが取れたハッシュタグを、合計5つ提案してください。

    3. 出力形式(Format)の厳密指定

    生成物は必ず、以下の形式ルールに厳密に従って出力してください。

    言語: 全て日本語で出力。

    形式: Markdown形式(必須)。見出し(##、###)と箇条書き(*)を使い、視認性を高めてください。

    セクション: 出力を下記の3つのセクションに厳密に分けてください。

    ## 1. 分析と洞察

    ## 2. 応用可能な企画案(2案)

    ## 3. 推奨ハッシュタグ

    上記に基づき、分析と企画提案を開始してください。

    今回は、Gemへのメインプロンプトに「分析対象」の入力を二つに分けることで、目的別のネタ出しを行ってもらいました。

    一つ目は、「認知拡大」のための競合分析です。

    参考となるコンテンツのテキストやいいね数をインプットすることで、成功の核となる要因を3点分析し、特にキャッチコピーやデザインなどの「クリエイティブ要素」を深く掘り下げてくれます。

    今回は、OpenAIが発表した新しいモデルを使ってみたという、Xでいいねが多かった投稿のテキストを入力すると、テキストの要約と、なぜ読者の関心を引いたのかという分析、応用可能な企画案をいくつか提示してくれました。

    AIによる「企画・ネタ出し」の自動生成
    分析に基づいた応用可能なSNS投稿企画案を提案してくれた

    提示された企画案の中から、気に入った企画を選択すると、さらに動画構成案やキャッチコピー提案、推奨ハッシュタグなどを提示してくれます。

    ここからさらに深ぼって壁打ちを行っていくことで、アイディアの着想を得ることができます。

    二つ目が、「潜在価値の掘り起こし」のためのテーマ指定です。

    特定のトレンドテーマやニュースを直接指定することで、「分析と洞察」「応用可能な企画案(2案)」「推奨ハッシュタグ」といった3セクションに分けて出力してもらいます。

    AIによる「企画・ネタ出し」の自動生成
    AIエージェントについて、読者の関心を引く切り口を3点提示してくれている。

    SNSのプラットフォームが決まっている際は、動画なのかテキストなのか、その尺や文字数などを細かく指定することで、より完成に近いアウトプットが期待できます。

    AIが提案してくれた内容をそのまま活用することは難しいと感じますが、注目を集めているコンテンツや発信したいテーマをもとにした新たな視点が得られるため、ゼロから一人でネタ出しをするよりも効率化することができます。

    まとめ

    SNS運用の自動化において最も大切なことは、AIなどを活用して効率化することで生まれた時間を、人間にしかできない創作や価値判断に充てることです。

    自動化の方法は今回紹介した手法以外にも様々ありますが、目的に応じて効率化できる部分を特定し、自社に合った自動化を進めることが重要です。

    企画やネタ出しに関しても、AIが提案してくれる内容はあくまで「タタキ台」ですが、このタタキ台があるおかげでゼロから悩む苦しみから解放され、情報の鮮度が落ちる前に自社らしい言葉を添えて発信できるようになるでしょう。

  • 飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案

    飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案

    多くの飲食店の現場の日々の運営では、重要な判断の多くが長年の「勘」や「経験」に頼らざるを得ない現状があります。

    本記事では、この課題を「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」「情報のリアルタイム性の欠如」の3つの領域に集約し、それぞれの課題を解決するために必要なデータと、そのデータを活用したシステムについて紹介します。

    また、実際にノーコード・ローコードAI構築ツールDifyを用いてシステムを構築する方法と、その過程で直面したLLM特有の課題について解説します。

    飲食店における3つの課題

    飲食店の現場では、顧客の注文タイミングや注文量は流動的で、それに伴い在庫も常に変化しています。

    そのため、日々の運営では非効率性と見えないコストに悩まされています。

    これらは主に「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」「労働力の偏り」の3つの領域に集約されます。

    在庫管理の非効率性と食材ロス

    在庫管理は、単なる食材のストック確認ではなく、キャッシュフロー、顧客満足度、そして利益率を直接左右する要素です。

    しかし、多くの飲食店では、この重要な在庫管理が「勘」や「経験」に頼っている現状があり、その日の仕込み量が正確に予測できないため、安全策として多めに発注しがちです。

    その結果、特に鮮度が命の食材が期限切れとなり、廃棄コスト(食材ロス)が発生します。

    また、ロスが確定するのは閉店後の集計時であり、その日のうちに対策を講じることは不可能です。

    売上機会の損失

    顧客への追加注文やおすすめの提案は、売上を左右する重要な要素ですが、そのタイミングはスタッフの感覚に依存しています。

    一般的には、「飲み物が空になったら声をかける」「食事が終わるのを待つ」といったルールに従うことが多く、顧客が本当に欲しいと思う最適な瞬間を逃しがちです。このタイミングの遅れや見逃しは、客単価を伸ばす機会を失うことにつながります。

    また、スタッフがおすすめ提案を行う際も、個人的に好きなメニューや、作り慣れているメニューを提案する傾向があり、ロス削減に貢献できるメニューや利益率の高いメニューが適切に提案されないことがあります。

    情報の「リアルタイム性」の欠如

    従来のPOSシステムや手書きの帳簿では、情報の鮮度が遅く、意思決定に役立ちません。

    多くのデータ分析は、一日の営業が終了し、レジを締めた後に行われます。

    このデータは「今日の結果」を示すものであり、「今、どう行動すべきか」というリアルタイムのアクションに活かすことはできません。

    そのため、売れ行きの良いメニューの追加の仕込みや、緊急の追加発注を行うこともできず、本来提供できたはずの売上を逃すことになります。

    効率化するためにどのようなデータが必要か

    こうした課題を解決するための一つの手段として、AIの活用があります。

    AIを活用し、従来の「勘」や「経験」を超えた正確な予測と最適な提案を行うためには、質の高いデータが必要です。

    今回は、「次の注文予測」「在庫推論」「ロス削減」を実現するために必要なデータを紹介します。

    1:注文行動と動向を把握するデータ

    1つ目は、顧客が「いつ」「何を」「どれだけ」注文したかを記録したデータです。

    このデータにより、AIがパターン認識と予測を行うための基盤を作ることができます。

    必要なデータ 目的と活用方法
    注文履歴データ 過去数週間、数ヶ月にわたるすべての注文日時、メニュー名、数量を記録。これにより、時間帯ごとの需要の変動季節性を学習します。
    テーブル単位の注文データ あるテーブルが最後に注文した時間と内容を記録。AIは「食後のコーヒーを注文したテーブルが、さらに追加のデザートを注文するまでの平均時間」など、次の注文までの時間予測に活用します。
    メニューの組み合わせデータ 「ビールと唐揚げ」のように、一緒に注文される頻度の高いメニューの組み合わせを把握し、提案ロジックの精度向上に役立てます。

    2:在庫のリアルタイム推論を可能にするデータ

    2つ目は、注文量から消費量を差し引き、常に理論上のリアルタイム在庫を把握するために不可欠なデータです。

    このデータにより、AIは物理的な食材の状態とメニュー構成に基づき、より現実に近い残量を推論することができます。

    必要なデータ 目的と活用方法
    レシピ・構成データ 各メニューを作るために必要な正確な材料と使用量(例:「ハンバーグ1食には牛ひき肉が150g必要」)。これがAIによる「仮想在庫の差し引き計算」の基礎となります。
    初期在庫データ 営業開始時点、または発注を受けた時点のすべての食材の物理的な初期在庫量を正確にシステムに入力します。在庫推論の計算の起点となります。
    歩留まり率データ 食材の調理過程で生じるロス率(例: 鶏肉の筋や骨を取り除く際の廃棄率)。このデータを含めることで、AIは注文が入った際により現実に近い残量を推論できます。
    在庫単位の標準化 食材の計測単位(kg, 個, mL)をシステム内で統一します。これにより、レシピのグラム単位での消費と、在庫のパック単位での計測との間で正確な変換が可能になります。

    3:ロス削減と利益最大化のためのデータ

    最後のデータ群は、単なるオペレーションの効率化に留まらず、ロス削減と利益向上といった経営的な判断をAIが行うために不可欠な情報です。

    このデータにより、AIは食材の鮮度とメニューの収益性を考慮した上で、最も効果的な提案を導き出すことができます。

    必要なデータ 目的と活用方法
    食材の賞味期限データ 各食材の入荷日と厳密な賞味期限を記録。AIは「今日中に使い切らなければならない食材」を特定し、その食材を使ったメニューの提案を最優先します。
    原価率・利益率データ 各メニューの原価と販売価格を記録。ロス削減のメニューと並行して、利益率の高いメニューを提案することで、売上だけでなく利益の最大化を目指します。

    3つのコアデータに基づくAIシステム構築案

    次に、「注文行動」「リアルタイム在庫推論」「ロス削減と利益最大化」の3つのコアデータ群を活用して、どのようなシステムを構築することができるのか、また、どのような効率化が図れるのかを見ていきます。

    注文行動データを活用したシステム

    このシステムは、顧客の注文行動と動向を把握するデータを活用し、客単価を最大化することを目指します。

    まず、注文履歴データを分析し、あるテーブルが「食後のコーヒーを注文した後に、追加のデザートを注文するまでの平均時間」など、次に注文が入るタイミングとメニューを予測します。

    この予測は、時系列分析と確率モデルによって成り立っています。

    機械学習モデルが過去の注文履歴データ(日時、メニュー名、数量)を大量に分析し、時間帯ごとや季節ごとの需要の変動を学習します。

    学習をしたAIは「メインディッシュの注文完了から平均15分後にデザートの注文が発生しやすい」といった時間的なパターンや、「Aメニューの後にBメニューが注文される確率」といった連続的なパターンを認識します。

    さらに、各テーブルの注文状況と時間経過データを取得すれば、次に注文される可能性が最も高いメニューとその注文が発生する時間帯を予測することができます。

    また、過去の注文データから、「ビールと唐揚げ」のように、一緒に注文される頻度が高いメニューの組み合わせ(アソシエーションルール)を洗い出すことで、相性の良い組み合わせを提案することもできます。

    テーブル単位の注文データを活用すれば、次の注文が入りやすい最適な瞬間をAIが予測し、スタッフの呼びかけをトリガーすることができます。

    これには、テーブル単位の注文データに基づき、「最後にドリンクが注文されてから〇〇分経過」「メインディッシュが配膳されてから〇〇分経過」といった時間経過の変数を算出します。

    そして、これらの変数と、過去のデータから導かれた「注文発生確率が高い時間帯」を組み合わせ、「今、スタッフが声をかけるべき度合い」をスコア化します。

    スコアが一定のしきい値を超えたとき、スタッフのタブレットやインカムに「テーブルT003、ドリンク追加提案の最適タイミング」といった通知を行い、売上機会の逸失を防ぎます。

    リアルタイム在庫推論システム

    このシステムは、在庫のリアルタイム推論を可能にするデータを基盤とし、物理的な棚卸し負担を減らし、食材の無駄を排除することを目的とします。

    レシピ・構成データを利用することで、注文が入るたびに、全てのメニューの仮想在庫(食数)と食材のグラム単位の残量をリアルタイムで差し引き、推論します。

    これにより、実地棚卸しを行うことなく、現実に近い在庫を把握できます。

    例えば、「ハンバーグ1食には牛ひき肉が150g必要」といったように、すべてのメニューに必要な食材の正確な消費量をシステムに定義します。

    そして、注文が入った瞬間、AIはこの定義に基づき、必要な食材量を現在の初期在庫データまたは実行中の理論残高から差し引きます。

    このプロセスをすべての注文で瞬時に繰り返すことで、スタッフが棚卸しをしなくても、食材のグラム単位での正確な残量(理論値)をリアルタイムで推論し、表示するというものです。

    また、初期在庫データや歩留まり率データ(調理過程で生じる食材のロス率)を組み合わることで、翌日の予約状況や過去の需要パターンに基づき、廃棄が出ない最適な仕込み量を推奨したり、欠品が起きる前に必要な発注量を自動計算・通知したりすることができます。

    ロス・利益最大化のためのリアルタイム提案エージェント

    このシステムは、ロス削減と利益最大化のための判断を、リアルタイムで実行することを目的とします。

    まずは、食材の賞味期限データやリアルタイム在庫推論システムから得られた残量データに基づき、各食材に「鮮度スコア」や「在庫圧迫度」といった数値を割り当てます。

    AIまたはビジネスロジックは、その食材を使うすべてのメニューに、これらの数値を合算・重み付けしてロスリスクスコアとして割り当てます。

    このスコアに基づき、メニューをリアルタイムで廃棄リスクの高い順にランキングします。このランキングが、接客時の提案優先順位の基礎となります。

    ロスリスクスコアが同じメニューが複数ある場合、AIは次に利益率が高いメニューを優先的に選定するロジックを適用します。

    これにより、同じロス削減効果を得るならば、より多くの利益をもたらすメニューを優先的に提案します。

    このフィルタリングとランキングを通じて、「今、在庫を減らすべきメニュー」かつ「利益率が高いメニュー」という最適解を一つに絞り込みます。

    その結果、「新鮮な食材を使った季節のパスタはいかがですか?」といった提案トークを生成し、スタッフのタブレットに表示します。

    これらのシステムが連携することで、日々の運営における非効率性とコストを根本的に解消します。

    ロスリスクの高いメニューを提案するエージェントをDifyで構築してみた

    今回は、前章で紹介した「ロス・利益最大化のためのリアルタイム提案エージェント」の簡易的なデモシステムを、DifyとGoogle Apps Script(以下、GAS)で構築してみました。

    最終的には、スタッフが「今日、一番売るべきメニューは何ですか?その理由も教えてください。」と質問すると、中央データベースに集約されている在庫やロスリスクスコアを参照し、適切なメニューを提案してくれることを目指します。

    中央データベース(Google Sheets)とGASによるAPIの構築

    今回構築するシステムでは、在庫やロスリスクスコアといったデータが集約されている「中央データベース」の代わりに、Google Sheetsに記載された内容をデータベースとして利用し、Google Apps Script(GAS)を使って外部APIを作成しました。

    このAPIは、Difyからリクエストを受けるとGoolge Sheetsのデータを参照し、ロスリスクスコアが最も高いメニューをJSON形式で返します。

    今回は、「季節のパスタ」が最もロスリスクの高く、利益率が高いメニューとして設定しています。

    Google Sheetsで構築した仮のデータベース

    このGoogle SheetsとGASを連携させ、GASがGoogle Sheets内の最新のデータにアクセスすることで、ロスリスクが最も高いメニューとして「季節のパスタ」が正常に選定され、JSONデータが返ってきています。

    GASのAPI URLをブラウザに貼り付けた際の応答。正常にロスリスクが最も高いメニューを選定している。

    Difyでワークフローの構築

    次に、このGAS APIを、DifyのワークフローのHTTPリクエストノードに組み込むことで、GASからのJSONデータを取得します。

    飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案
    HTTPリクエストノードにGASのAPI URLを記載している

    そして、コード実行ノードにて、外部から取得したデータをLLMが利用できる形に変換するよう、Pythonコードを書いています。

    飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案
    コード実行ノードにて、外部から取得したデータをLLMが利用できる形に変換できるようにしている。

    整形済みのレポートはLLMノードに渡され、ユーザーの元の質問を元に、推奨メニューの情報を自然な会話形式の回答に変換します。

    飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案
    構築したワークフローの全体像と、LLMノードの設定画面

    これにより、「今日、一番売るべきメニューは何ですか?その理由も教えてください。」と入力欄に書き込むことで、Goolge Sheetsのデータを参照し、売るべきメニューとその理由を書いてくれています。

    飲食店運営にAIをどう活用する?「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」に対するAIシステムを提案
    入力欄と出力結果

    まとめ

    本記事では、飲食店の運営における「在庫・ロス管理」「売上機会の損失」「情報のリアルタイム性の欠如」という課題に焦点を当て、AIの可能性について紹介してきました。

    また、Difyを活用したワークフローでは、ロスリスクの高いメニューを提案をしてくれるエージェントを構築しました。

    今後も、その他の課題を解決するエージェントについても紹介していきたいと思います。

  • 生成AIでデキる営業の商談メモを再現性のあるナレッジへ、Difyを使ったナレッジ検索システム構築方法も解説

    生成AIでデキる営業の商談メモを再現性のあるナレッジへ、Difyを使ったナレッジ検索システム構築方法も解説

    営業担当者は、日々の営業活動の最中、商談の内容や顧客の反応、競合に関する情報などをメモに残しています。

    SFA(営業管理システム)などを活用して日々の営業活動を記録していれば、組織のナレッジ(知見)として蓄積することができます。

    しかし、一時的な記録としてメモを取り、その後は「個人の中に閉じた情報」になってしまうと、組織全体の成長に活用することはできません。

    特に、成績の良い営業担当者のメモは、「成功への洞察」や「失注から得た貴重な教訓」といった経験知になり得ます。

    一方、業務を遂行しながら、日々の商談内容のメモを蓄積するの営業担当者にとっては手間であり、データの収集が難しいと感じるケースも多くあります。

    そこで本記事では、メモを蓄積することでのメリットにはじまり、AIによる検索・活用を前提とした「営業メモの新しい書き方」と、そのメモを組織全体で活用するための具体的な「ナレッジ蓄積・検索システムの構築方法」を解説します。

    メモを蓄積することが組織にもたらすメリット

    成績の良い担当者の商談メモを蓄積することは、単なる記録の整理ではなく、営業活動全体を属人化から組織的な学習サイクルへと変革させるための投資だと言えます。

    具体的には、ベテラン営業担当者が商談で無意識に行っている「なぜ」「いつ」「どうしたか」というノウハウや、顧客が契約を決断した潜在的な理由を、メモを通じて言語化し、構造化します。

    これらの知恵がナレッジベースに蓄積されることで、第三者が再現できる「パターン」となり、経験の浅い担当者でもAIに類似事例を質問することで、過去の成功プロセスに基づいた具体的な行動指針を得ることができます。

    ベテラン営業担当者にとっても、自身の成功ロジックを客観視でき、他の担当者が抱える案件の「事実」や「解釈」も参照することができます。

    自身が直接関わっていない若手の商談状況についても、構造化されたメモを見ることで、報告を待たずに案件の核心の迅速な理解が可能となります。これにより、指導やフォローアップの精度とスピードが向上します。

    また、成功事例の共有以上に重要なのが、失敗(失注)から得られる教訓です。

    顧客が競合を選んだ具体的な理由や、商材の致命的な懸念事項が記された失注メモは、製品開発チームやマーケティング戦略チームにとって価値ある情報源となります。

    失敗の教訓を組織のデータベースに構造的に集約することで、組織は同じ失敗を繰り返すことを防ぎ、市場のニーズに合わせた製品改善や戦略立案に役立てる学習サイクルを確立できます。

    AIがナレッジとして認識するためのメモの条件

    個人の経験知を、組織のナレッジとして活用するためには、AIが活用できる「構造化されたデータ資産」として扱う必要があります。

    AIが情報を正確に把握し、価値あるナレッジとして抽出するためには、メモ作成時に以下の3つの条件を満たすことが重要です。

    1:メタ情報の明確化

    メモの本文に入る前に、そのメモが「どのような状況で生まれた情報か」を示すメタ情報(付帯情報)を明確にすることが、AIが情報を分類し、適切な文脈で検索を行うための鍵となります。

    以下は、メモに必須となるメタ情報とその重要性、AIを活用した検索における具体的な役割を表した表です。

    メタ情報 必須理由 AI検索時の具体的な役割
    日時 情報の鮮度と時系列を正確に把握するため。 「3ヶ月前の競合の動きを知りたい」など、時間軸に基づく分析を可能にする。
    話者・役職 発言が誰によってなされたか(発言の重み)を判断するため。 「先方の部長の発言のみを抽出したい」など、権限に基づく戦略的な情報抽出に役立つ。
    顧客名・商材 どのプロジェクト・顧客に関する情報かを特定し、横断的なナレッジ化を行うため。 「A社の案件における共通の懸念点」など、具体的なターゲットに基づく検索を実現する。
    フェーズ 商談のどの段階(初期ヒアリング、価格交渉など)の議論かという文脈を明確にするため。 「クロージングフェーズで成功した切り返し」など、営業プロセスに特化した実践的なナレッジを抽出する。

    特に重要なのが、「どのフェーズで行われた議論か」という情報です。

    このフェーズ情報が付いていることで、AIは「初期ヒアリングで最も盛り上がった話題」や「価格交渉で使われた常套句」など、営業プロセスに特化した具体的なナレッジを抽出できるようになります。

    2:本文の構造化

    メモの本文を単なる会話の羅列にするのではなく、情報を明確な構造に分けて記述することが、AIによる正確な分析を可能にします。

    ここで推奨するのが、以下の3要素への分離です。

    顧客の発言・要求といった事実

    商談で実際に顧客が発言した客観的な情報を記録します。「〜と推測される」「〜かもしれない」といった個人の主観を排除し、正確なニーズ分析の土台とします。

    例えば、「納期は最低でも3ヶ月以内にしてほしい。」 「競合B社の製品のUXは評価している。」といった発言がこれにあたります。

    営業担当者の推測や真意

    次に、事実に基づき、営業担当者が感じた推測や顧客の真意を記録します。

    これは、ベテランの洞察や経験が最も反映される部分であり、AIが文脈と背景を理解するために非常に重要です。

    例えば、「納期を強く要求したのは、社内の既存システム更改が迫っているためと推測される。」 「B社のUXを評価しつつも、価格交渉を重ねてきたのは、最終的な決定権が価格を重視する層にある可能性がある。」といったメモです。

    次の行動

    その商談で得た情報に基づき、ナレッジを行動に結びつけるための具体的なステップを記録します。

    例えば、「来週火曜日までに、競合B社の価格に対する優位性を具体的に示す資料を作成し、部長にレビューを依頼する。」といったように、具体的なアクションを記述します。

    この構造化により、AIは「顧客の客観的なニーズ(事実)」と「営業担当者の深い洞察(解釈)」を明確に区別して学習・検索できるようになるほか、その後のアクションを経て正しい成果につながったかを検証するデータとなります。

    3:曖昧な表現の排除

    さらに、AIによるナレッジ検索の精度を高めるためには、メモから抽象的で曖昧な表現を排除する必要があります。

    「あの競合」や「先方の部長」といった抽象的な表現は、AIにとって情報価値がゼロです。

    例えば、「先方の部長は、以前のサービスについて少し不満があったようだ。」というメモであると、誰が何に対して不満があったのかが分かりません。

    抽象的なメモでもAIは文脈を捉えようとしますが、推測や解釈のプロセスで齟齬が生まれる可能性があり、その分、情報が不確実になります。

    そこで、「山田部長は、旧システムAのレスポンス速度について具体的な不満点(1.5秒の遅延)を指摘した。」というふうに、感情的な表現や定性的な評価を、可能な限り数字や具体的な事象に置き換えることで、AIは定量的な比較や検索を行えるようになります。

    AI議事録ツールの活用

    このように、メモにメタ情報を付与し、本文を構造化することで、AIのナレッジとして活用することができます。

    しかし、商談中にこれを意識しながらメモを取るのは難易度が高く、商談後に営業担当者が手動でこれらの作業を行えば新たな負担となってしまいます。

    そこで、AI議事録ツールを活用することで、メモの必須条件を満たしつつ、営業担当者の負担を削減することができます。

    本章では、AI議事録ツールがどのような役割を果たすのかを紹介します。

    自動メタ情報付与による営業負荷の軽減

    商談時の「いつ」「誰が」「どの案件で」といったメタ情報の付与は、AI議事録ツールが自動化できる重要な機能の一つです。

    AI議事録ツールは、商談が行われたシステム時刻を自動で正確に記録します。

    また、音声から話者分離を行い、「誰が何を話したか」を正確に文字起こしデータに紐付けるツールもあります。

    これにより、手動での記録の手間がなくなり、「日時」「話者」のメタ情報が自動で満たされます。

    さらに、SFAやCRMといった営業支援システムとさせることで、文字起こしデータを案件名、顧客名、商談フェーズといったSFAのデータに自動で紐づけることができます。

    この連携により、メモが個人のファイルに「孤立化」することなく、組織のデータベースに構造的に紐づけられます。

    この紐付けを行うことで、後にナレッジ検索(RAG)を行う際に、AIが「どのフェーズの案件か」という文脈を理解するための基盤を構築することができます。

    AIによる自動要約と構造化

    二つ目は、文字起こし後のデータ整理です。AI議事録ツールは、音声認識された会話の膨大なテキストデータから、AIがナレッジとして最も価値のある部分を抽出し、あらかじめ設定された構造に自動で整形します。

    AIが音声認識された会話のテキストデータを受け取ると、以下のプロセスを通じて構造化データを自動で作成します。

    まず、AIは会話のトーン、キーワードの出現頻度、質問と回答の関係性といった要素を分析し、「顧客ニーズ」「競合への評価」「懸念事項」など、ナレッジとして最も価値のある重要ポイントを特定します。

    次に、特定されたポイントを、AIがあらかじめ学習したパターン認識に基づいて要素ごとに分離し、分類します。

    例えば、「事実」「解釈/所感」「次のアクション」を抽出してと事前に定義した場合、顧客の具体的な発言や要求は「事実」として分離され、営業担当者が聞き取った内容から推測される懸念事項や顧客の真意は「解釈/所感」の雛形に当てはめられます。

    最後に、会話の中で触れられた「いつまでに」「誰が」といったタスクや期日の言及は、「次のアクション」として抽出・整理されます。

    そして、AIが一定のプロンプトとルールに従って構造化することで、全社のメモが統一されたフォーマット(JSONやCSVなどの構造化データ)で出力されます。

    この均質で構造化されたデータが、後の「ナレッジ検索」の品質を保証し、高品質なインプットを実現します。

    AI議事録ツールを活用することで、メモの蓄積という業務を効率化し、組織のナレッジベース構築を支援します。

    関連記事:AI議事録ツールに関してより詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
    生成AIで無駄な会議をなくす?議事録にAI活用し「生産的な議論と問題解決の場」へと変革するヒントを紹介

    Difyでナレッジ蓄積・検索システムを構築構築してみた

    前章で紹介したAI議事録ツールには、ナレッジを蓄積して検索までできる製品もありますが、構造をより深く理解するために、今回もノーコード・ローコードプラットフォーム「Dify」で実際にシステムを構築してみました。

    今回は、手書きやAI議事録ツールなどで書き出した商談のメモをアップロードすることで、「事実」「解釈」「次の行動」の3つの項目別に要約を行い、その情報を蓄積して検索することができる仕様としました。

    このシステムの構築方法は、三段階のプロセスで構成されています。

    ステージ1:LLMによる知見の構造化

    まずは、非均質な商談のメモから「経験知」を抽出し、情報形式へとデータを変換します。

    具体的には、DifyのワークフローのLLMノードでシステムプロンプトを設定することで、入力された長文のメモに対し、以下の構造化処理を実行させます。

    【システムプロンプト】

    【実行指示】
    あなたは入力された内容から、重要な知見を抽出する専門家AIです。
    1. 入力されたテキストを分析し、以下の構造を持つ「議事録メモ」を**Markdown形式の日本語テキスト**で出力してください。
    2. **メタ情報**、**事実**、**解釈**、**次の行動**の各項目を必ず埋めてください。
    3. 余分なコメントや説明は一切加えないでください。

    ### 議事録メモ
    * **顧客名:** [議事録から抽出]
    * **製品名:** [議事録から抽出]
    * **営業フェーズ:** [議事録から抽出]
    * **日付:** [議事録から抽出 YYYY-MM-DD]

    #### 1. 事実 (Fact)
    [会議で発言された客観的な事柄を記述]

    #### 2. 解釈と洞察 (Interpretation & Insights)
    [事実に基づき、顧客の真のニーズや懸念、営業上の示唆を記述]

    #### 3. 次の行動 (Next Action)
    [誰が、何を、いつまでに行うべきか、具体的な行動を記述]

    【構造化された要素の目的と役割】

    構造化された要素 目的と意味
    【メタ情報】 顧客名、営業フェーズ、日付といった属性情報を抽出します。これはステージ II でRAGの検索フィルタとして利用され、検索精度を高めます(例:「〇〇社とのクロージングのメモだけを検索」)。
    事実 (Fact) 会議で発言された客観的な事柄(例:競合製品の具体的な弱点、顧客の予算発言)のみを記録します。
    解釈と洞察 (Interpretation) 営業担当者がその事実から得た示唆、顧客の真のニーズ、市場の分析といった主観的な知見を分離します。これが組織知の最も価値ある部分となります。
    次の行動 次に誰が、何を、いつまでに行うべきかという、行動を促す具体的なタスクを抽出します。

    なお、出力形式は、言葉や文章の意味をコンピュータが理解できる「数値の列(配列)」に変換したJSON形式であれば、厳格な検索・処理が可能ですが、今回はJSON形式ではエラーが発生してしまったため、LLMが処理を得意とするMarkdown形式での出力としました。

    ステージ2:構造化データの資産化

    ステージ1でLLMによって均質で構造化されたMarkdown形式のデータが手に入りましたが、このデータはまだ単なるファイルに過ぎません。

    そこでステージ2では、ファイルを「組織知」として検索・活用できるデジタル資産に変換していきます。

    この資産化を実現するのが、Difyのナレッジベース(データセット)機能です。

    これは、LLMが外部知識を参照するための基盤、すなわちRAG(検索拡張生成)のエンジンとなります。

    まず、ステージ1で作成された文章をテキストファイルとして保存し、Difyのナレッジベースへアップロードします。

    Difyはアップロードされたドキュメントに対し、RAG機能の中核となる処理を自動で実行します。

    具体的には、議事録メモ全体を、LLMが一度に処理できるサイズの意味的なブロック(チャンク)に分割します。

    Difyでナレッジ蓄積・検索システムを構築構築してみた
    ファイルをアップロードすることで、自動的にチャンク分割などを実行してくれている。

    この際、nn(ダブル改行)を識別子として設定することで、「事実」や「解釈」といったセクション単位で情報が切り分けられます。

    そして、分割された各チャンクは、埋め込みモデルによってベクトル(数値の配列)に変換されます。

    このベクトルは、ドキュメントの意味的な位置を示す地図のようなもので、ベクトルインデックスに登録されます。

    このベクトルインデックスが完成することで、ユーザーが質問すると、その質問もベクトルに変換され、ベクトルインデックス内の意味的に最も近い「解釈と洞察」のチャンク(ベクトル)が瞬時に特定されます。

    こうすることで、全社の営業メモがDify上の単一のナレッジベースに集約され、担当者や部署が異なっても、最新かつ均質な情報にアクセスできる環境が確立されます。

    ステージ3:組織知の活用

    最後のステージでは、ステージ2で構築されたナレッジ資産を、対話型のインターフェースを通じて活用できるようにします。

    この活用フェーズは、Difyのチャットボットアプリケーション機能を用いて構築されます。

    これは、ワークフローのような複雑なノード接続を必要とせず、RAG機能を設定として有効化できる、エンドユーザー向けのインターフェースです。

    アプリケーションを作成後、その設定画面で先ほど「利用可能」となったナレッジベース(データセット)を接続・有効化します。

    これにより、ユーザーがチャットボットに質問を投げかけると、LLMは自動的に接続されたナレッジベースに対して検索(RAG)を実行するため、LLMの回答は「過去の営業メモ」という現実の、根拠あるデータに裏打ちされます。

    Difyでナレッジ蓄積・検索システムを構築構築してみた
    チャットボットアプリケーションの設定画面。ナレッジベースへアップロードしたファイルをコンテキストとして知識をインポートしている。

    また、チャットボットアプリのシステムプロンプトでは、AIに対して厳格な役割と出力を指示します。

    【システムプロンプトの内容】

    AIの役割: 「あなたは営業知の専門家AIである」
    回答の目的: 単に情報を返すだけでなく、組織が行動を起こすための洞察を提供すること。

    この指示により、チャットボットはナレッジベースから得た情報を統合し、実務的な構造を持つ回答を出力します。

    今回は、5つの仮の会議メモをコンテキストとしてアップロードし、「ABCテクノロジー社への最終提案において、現在最も警戒すべきコスト面のリスクは何か?過去の失注要因も踏まえて具体的な対策を教えて。」「nsight Xを提案する上で、競合他社に対する最も効果的な切り口は何?」と質問しました。

    すると、必要なメモを検索した上で、事実の提示や具体的なトーク例などを提案してくれました。

    Difyでナレッジ蓄積・検索システムを構築構築してみた
    質問に対し、ナレッジベースにアップロードした内容を参照して回答してくれている。

    まとめ

    このように、商談の洞察や教訓のメモ内容をAIが分析できるように整えて蓄積していくことで、進捗状況や成功パターンの把握に加え、フェーズごとの対応策や具体的なトーク例などを提示してくれます。

    Difyなどのノーコード・ローコードプラットフォームを活用し、簡易的に構築したシステムでメモを蓄積することでのメリットを感じた上で、さらなる拡張やSFAの導入の検討などを行うことで、現場主導の積極的なメモの蓄積とデータ活用を支援するでしょう。

  • AI-OCRとは?基本定義や種類からDifyとGeminiで営業の紙処理を自動化するステップも解説

    AI-OCRとは?基本定義や種類からDifyとGeminiで営業の紙処理を自動化するステップも解説

    企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる現代においても、日々の業務に不可欠な書類処理が未だに紙や手入力に依存しているケースも多くあります。

    このアナログな業務プロセスが非効率性を生み、業務効率を低下させる大きな原因となっています。

    こうした書類処理を自動化するために一役を買うのが、「AI-OCR」という技術です。

    本記事では、AI-OCRの基本定義や種類、選定時のチェックポイントに加え、DifyプラットフォームによるAI-OCRシステムの具体的な構築ステップなどを紹介します。

    紙ベースの非効率性とAI-OCR活用の必要性

    多くの組織では、未だに紙帳ベースの書類処理が根強く残っており、これが企業活動を支えるバックオフィス部門や営業部門の生産性を押し下げています。

    総務・経理部門における非効率性の課題

    総務部門では、部署からの備品発注書や、業者からの納品書や請求書など、日々、様々な種類の紙帳が集約されます。

    これらの内容は、人手で読み取り、在庫管理システムや会計システムへ転記・入力します。

    こうした事務処理作業には膨大な時間がかかるほか、大量のデータを手入力する過程で、誤字や転記ミスが発生しやすいという課題もあります。

    これが、在庫の過不足や経費処理の遅延、さらには取引先とのトラブルに繋がることもあります。

    経理部門における請求書や経費精算の処理も同様で、紙の情報を基幹システムに打ち込むアナログな仕組みが、経理業務全体のボトルネックとなっています。

    営業・その他の部門におけるコア業務への集中阻害

    営業部門は、売上に直結するビジネス活動に集中すべきですが、間接業務に時間を奪われがちです。

    例えば、顧客から受け取る注文書や契約書は、非定型なレイアウトや手書き文字を含むことがあり、これをSFA(営業管理システム)やCRM(顧客管理システム)といったシステムへ登録する作業が大きな作業負担となります。

    また、契約情報を迅速にデジタル化できないことにより、商品やサービスの提供開始が遅れ、顧客満足度の低下や機会損失に繋がる可能性もあります。

    このように、紙ベースの業務は「人手による入力時間の浪費」「ミスの多発」「コア業務への集中阻害」という複数の課題を抱えており、企業全体の生産性を押し下げています。

    これらの課題を解決する一つの手段として、AIを組み込んだAI-OCR(光学的文字認識)技術があります。

    AI-OCRは、単に文字を読み取れるだけでなく、ディープラーニングなどの技術を活用して、複雑なフォーマットや認識が難しい手書き文字からも、必要な情報を高精度で抽出する仕組みを持っています。

    AI-OCRとは?その定義と基本機能

    AI-OCRとは、AIを組み込んだOptical Character Recognition(光学的文字認識)の略称です。

    画像データとして取り込んだ手書きや印刷された文字を、AIが解析し、デジタルなテキストデータとして自動で認識・抽出する仕組みのことです。

    AI-OCRの中核には、ディープラーニング(深層学習)といった人工知能技術が用いられています。

    これにより、複雑な文字の形やレイアウトを、人間のように分析し、判断することが可能となります。

    AI-OCRの処理フローと仕組み

    AI-OCRは、以下の基本的な仕組みで動作し、紙の情報を価値あるデータに変換します。

    ① 画像データの取り込み

    紙の請求書や発注書をスキャナーや複合機で読み込み、JPEGやPDFなどの画像データとして取り込みます。

    ② 文字の読み取りと認識

    AI-OCRエンジンが、画像内のどこに文字があるかを特定します。

    そして、ディープラーニングモデルが、その文字一つ一つを解析し、対応するテキストデータに変換します。

    手書き文字や異なるフォントが混在していたとしても、AIが文脈や文字の形状を学習しているため、高い精度で読み取ることができます。

    データの整理と構造化

    AI-OCRは、単にテキスト化するだけでなく、抽出した文字が何を意味するかを理解します。

    例えば、「日付」「金額」「品名」といった項目を識別し、意味のあるデータとして整理します。

    この段階で、データはシステムに登録しやすいCSVやJSONなどの形式に変換されます。

    自動連携と分析

    整理されたデータは、APIを通じてバックオフィスシステムに自動的に送信され、次の業務プロセス(例:在庫数の更新、支払い処理の開始)を起動する機能を果たします。

    蓄積された大量のデータは、分析のベースとして活用され、発注傾向やコスト管理の最適化などに役立ちます。

    さらに、IoTデバイスのデータと連携すれば、広範な機能を持つシステム構築も視野に入ってきます。

    従来のOCRとの違いを比較

    AI-OCRを注目を集めたのは、単に文字を認識するだけでなく、従来のOCR(Optical Character Recognition)が抱えていた限界を、ディープラーニングという人工知能の力でブレークスルーした点にあります。

    従来のOCRの限界

    従来のOCR技術は、optical character recognitionの定義が示すように、光学的情報から文字を認識する仕組みでした。

    しかし、その基本は「テンプレートベース」や「ルールベース」であり、活字や定型フォーマットの文字認識には対応できましたが、手書き文字や、傾き、汚れ、かすれなどがある画像、特に品質が落ちやすいFAXで送られた文字は読み取れませんでした。

    また、請求書や注文書など、レイアウトやデザインが異なる非定型な書類に対しては、その都度、読み取り範囲や設定を人手で調整する必要があり、非常に作業負荷が高く、比較的導入が難しいという課題がありました。

    こうした中登場したAI-OCRは、ディープラーニングを用いた学習能力を持つことで、従来の課題を一掃しました。

    AI-OCRが実現した決定的な違い

    AI-OCRは、大量のデータから様々な手書き文字のパターンを学習します。その結果、崩れた手書き文字や、枠からはみ出した文字でも、文脈や形状を分析して正確に認識することが可能になりました。

    また、レイアウトが異なる取引先ごとの注文書や請求書であっても、AIが自動で「これは合計金額」「これは発注日」といった意味を理解し、必要な項目を特定して抽出します。

    これにより、テンプレート設定の作業がほぼ不要となりました。

    また、AI-OCRの最大の特徴は、利用するごとに精度が向上していく仕組みです。

    AIが間違って認識した箇所をオペレーターが修正すると、その修正履歴をディープラーニングモデルが学習し、次回以降の同様のパターンの認識精度を高めます。

    これは、従来のOCRのように人手による再設定やカスタマイズではなく、AI自身が成長し続けることを意味します。

    AI-OCRの種類

    AI-OCRの導入を検討する際、まず知っておくべきことは、その種類が大きく「汎用型」と「業務特化型」の二つに分けられることです。

    自社の作業内容や目的に合わせて、どちらの特徴を持つシステムが最適かを選ぶことが、導入成功の鍵となります。

    汎用型AI-OCR

    汎用型AI-OCRは、一般的な文字認識機能を持ち、事前に特定の定型フォーマットに限定されず、さまざまな文書タイプに対応できる柔軟性を備えています。

    ユーザーが読み取りたい項目を自由に設定し、カスタマイズすることが可能です。

    そのため、処理する文書の種類が各種にわたり、少量多品目の書類を扱う企業に適しています。

    特定の定型業務だけでなく、会社全体のデジタル化の基本インフラとして活用したい場合に有効です。

    業務特化型AI-OCR

    一方、業務特化型AI-OCRは、会計処理や建設業、医療など、特定の業界やビジネスプロセスに最適化されているのが特徴です。

    請求書、領収書、注文書など、特定の定型文書の読み取り精度や項目抽出率が極めて高く設計されています。

    そのため、特定の部門や作業で、大量の定型文書を扱う場合に効率を発揮します。

    選定時の重要チェックポイント

    自社のニーズに合わせて、汎用型か特化型かを判断した後、具体的な製品を選ぶための検査項目を確認します。

    機能性の検査と業務への適応力

    AI-OCRの導入時間や作業負荷を削減するため、読み取りたい項目(品名、単価、手書きの署名など)を、利用者が簡単に設定できる機能が備わっているかを確認する必要があります。

    また、多種多様な紙帳(請求書、注文書、領収書など)の種類をAIが自動で判断し、適切な処理フローへ振り分けられる機能があるか、FAX画像や手書き文字といった品質の低いデータでの認識精度が十分高いか、認識精度が低い場合に担当者が簡単にデータ修正を行えるインターフェースが用意されているかなどを確認しましょう。

    コストとパフォーマンス

    AI-OCRのコストは、多くの場合、従量課金ベースとなります。

    そのため、月間処理枚数や、読み取りに失敗した場合の課金仕組み、初期設定費用など、全てのコスト構造を明確にチェックします。

    そして、AI-OCRが削減する人手による入力時間や、ヒューマンエラーによるコストを定量的に算出し、導入コストと比較して、投資に見合うだけの効果が得られるかを確認します。

    導入後のサポートと最適化

    導入はゴールではなくスタートです。継続的に利用し、DXを推進するためにはサポート体制が欠かせません。

    そのため、トラブル発生時に迅速に対応してくれる時間帯や、技術サポートのレベルを確認します。

    また、AIが利用者の修正履歴をディープラーニングで学習し、精度を継続的に向上させる仕組みが用意されているか、Difyのような外部のワークフローツールやIoTデバイスなどの将来的な拡張連携が容易に可能かどうかを確認します。

    特に、データ連携や自動化を目的とする場合は、APIの柔軟性が重要になります。

    これらのチェックポイントを総合的に評価し、自社の業務フローに最も最適で、かつコストに見合うAI-OCR製品を選定することが、成功の秘訣です。

    DifyによるAI-OCRシステムの具体的な構築ステップ

    これまで解説したAI-OCRの機能と仕組みを、ノーコード・ローコードプラットフォームであるDifyを活用することで、専門知識がなくとも構築することができます。

    本記事では、FAXやスキャンされたPDFで届く非定型な契約書をSFAへ手動で転記する作業を効率化するため、DifyとGemini VLMを活用した簡易的なAI-OCRシステムを構築してみました。

    OCR層とLLM処理層の統合(Gemini VLMの役割)

    DifyでAI-OCRシステムを構築する場合、Google Cloud Vision APIなどの高精度な外部OCRサービスをDifyのツール機能として組み込むこともできますが、今回は、画像とテキストの両方を同時に理解できる「Gemini VLM」を活用した簡易なシステム構成にしました。

    具体的には、テキスト抽出を行うOCR層と、データ分析・整理の役割を担うLLM処理層の両方をGemini VLMが担います。

    Gemini VLMにより、通常は必要となる外部OCRツールとの連携やCode実行ノードなどの中間処理を必要とせず、画像認識とテキスト抽出、抽出したテキストの分析・整理を一括で行います。

    これにより、ユーザーが契約書の画像をDifyにアップロードすることでLLMノードが起動し、画像ファイルを直接読み取って文字(テキスト)データに変換します。

    そして、SYSTEMプロンプトとJSONスキーマに基づき、抽出したテキストを分析・整理し、営業データとして意味のある構造化JSONデータに変換します。

    AI-OCRとは?DifyとGeminiで実現する営業の紙処理を自動化するAI-OCRシステム構築ガイドも解説
    設定したSYSTEMプロンプトとJSONスキーマ

    アウトプットの定義

    構造化されたJSONデータは、本来はHTTPリクエストノードを通じて、自社のSFAシステムなどへ自動で送信します。

    今回はSFAシステムが存在しないため、「出力ノード」 を使用し、架空の購買契約書からテキストを抽出し、構造化されたデータが正しく生成されたことを画面上に表示することでシミュレーションしています。

    AI-OCRとは?DifyとGeminiで実現する営業の紙処理を自動化するAI-OCRシステム構築ガイドも解説
    架空の購買契約書
    AI-OCRとは?DifyとGeminiで実現する営業の紙処理を自動化するAI-OCRシステム構築ガイドも解説
    購買契約書から、必要な項目をJSONデータとして生成してくれている。

    まとめ

    このように、Gemini VLMを活用することで、シンプルな構成で画像のテキスト読み取りと、SFAに登録可能な整形済みのJSONデータ生成を行うことができます。

    一方、外部OCRサービスを活用する方法では、OCR後の構造化ロジックを自前で組む必要があり、システム構築の複雑性が増しますが、毎月数万枚、数十万枚といった大量のバッチ処理する場合でも非常に速く、安定した処理を実行してくれます。

    まずは、簡易的なPoCをほぼコストゼロで実施し効果を実感した後に、処理量を増やすために拡張するなど、段階的なDX推進が可能になります。

  • AIで社内に点在するデータを「価値」に変えるには?営業業務効率化へ向けたDifyによるシステム構築方法も紹介

    AIで社内に点在するデータを「価値」に変えるには?営業業務効率化へ向けたDifyによるシステム構築方法も紹介

    多くの企業において、重要なデータがSaaSツール、ファイルサーバー、データベースなどに点在し、データのサイロ化や分析の遅延といった課題を引き起こしています。

    例えば、営業データはCRM、顧客対応履歴はヘルプデスクツール、財務データは会計システムといった具合に、情報が各システム内に閉じ込められることで、部門横断的な分析が困難になります。

    また、各システムから必要なデータを集める際には、手作業でエクスポートし、整形・統合する作業が発生します。

    さらに、同じ指標でも、システムによって定義や集計方法が異なる場合、どの数字が正しいのかが分からなくなる「データ不信」の状態を招きます。

    従来のビジネスインテリジェンス(BI)ツールやデータウェアハウス(DWH)構築は、これらの課題解決に有効ですが、大規模な初期投資と専門的な工数を要します。

    そこで本記事では、ノーコード・ローコードでAIアプリケーション開発ができる「Dify」を活用し、社内の散らばったデータを自動収集・分析するための「データベース構築と連携の設計思想」について解説します。

    Difyとは?AIアプリケーション開発のための統合プラットフォーム

    Difyは、LLM(大規模言語モデル)を活用し、実用的なAIアプリケーションを迅速に構築・運用するための、オープンソースのノーコード・ローコードプラットフォームです。

    従来のAI開発では、モデルの選定、プロンプトの設計、データ連携、インターフェースの構築などを個別に進める必要がありましたが、Difyはこれらを統合し、以下の主要な機能を提供します。

    機能名称 概要 Difyを活用した効果
    RAG(Retrieval-Augmented Generation)機能 社内のドキュメントやデータ(知識)を取り込み、AIが参照できるようにする機能。 最新の社内情報や非構造化データに基づいた、信頼性の高い回答をAIに生成させることが可能。
    プロンプトオーケストレーション 目的のタスクに合わせたプロンプト(指示)の設計、デバッグ、バージョン管理を一元的に行える。 AIの出力を安定させ、ビジネスロジックに沿った形でAIを運用・改善していくことが容易になる。
    ツール(Function Calling)連携 外部のアプリケーション(SaaSやデータベースのAPI)とAIを接続し、AIが自律的に外部システムを操作して情報を取得・実行できるようにする。 散在する構造化データやSaaSのリアルタイムデータにAIがアクセスし、より実践的なタスク実行や分析を可能にする。
    Webアプリへのデプロイ 開発したAIアプリケーションを、すぐに利用可能なWebインターフェースとして公開できる。 開発後すぐに社内ユーザーが利用できる状態にでき、利用部門への展開を迅速に行える。

    Difyは、こうした機能により、データ分析を専門としないユーザーでも、AIを中心とした新しいデータ連携・分析基盤を迅速に構築することを可能にします。

    また、初期段階で大規模なデータパイプラインを必要とせず、基盤となるLLMの切り替えやプロンプトの調整が容易で、スモールスタートが可能なのもDifyの利点です。

    まずは特定の部門やデータセットに絞ってRAGやツール連携を試し、フィードバックを得ながら分析範囲を拡張するアジャイルな開発に適しています。

    データの「正しい形」とは?AI分析に適したデータ構造の原則

    データ分析を行う際、データを集めることは必須となりますが、データをどんなに大量に集めても、AIがその意味(構造、文脈)を理解できなければ、分析や推論はできません。

    そのため、集めたデータをAIが理解できるよう「正しい形」に整理する必要があります。

    この「正しい形」を理解するために、まず社内のデータを大きく「整理されたデータ」と「文書データ」の2種類に分けて考えましょう。なお、2つのデータはそれぞれ「構造化データ」と「非構造化データ」と呼ばれます。

    「整理されたデータ」(構造化データ)の設計

    「整理されたデータ」とは、Excelの表やデータベースのように、行と列で意味が明確に定義されているデータです。例えば、顧客リスト、販売実績、在庫数などがこれにあたります。

    これらのデータを、AIの計算と推論を助ける設計にするには、「売上データ」と「顧客データ」のように、関連する情報がバラバラにならないよう、共通のID(キー)で結びつけておくことが重要です。

    これによりAIは、「A社の最新の売上は?」という質問に対し、顧客情報と売上実績を正しく結びつけて分析できます。

    Difyにおいても、AIがこれらのデータにアクセスする際、定義されたデータ構造を基に、どの情報(列や行)が必要かを判断します。

    この設計が、AIの計算精度や判断の的確さに直接左右します。

    「文書データ」(非構造化データ)の整理と文脈化

    「文書データ」とは、形式が決まっていないテキストやファイルのことです。

    例えば、社内マニュアル、議事録、顧客からのメール本文、PDFのレポートなどがこれにあたります。

    文書データは、そのままではAIが効率的に参照できないため、意味の塊(セクション、パラグラフ)ごとに小さく分割し、それぞれの「文脈」を保った断片(チャンク)にします。

    そして、分割した各文書の断片に対して、「作成部署」「作成日」「対象製品」といったタグや付帯情報(メタデータ)を付け加えます。

    Difyにおいては、RAG機能に文書データを取り込む際、このメタデータを設定します。

    メタデータを設定しておけば、AIはタグや付帯情報を使って、文脈に合った情報だけを素早く見つけ出すことができるようになります。

    データ定義の一貫性

    AIが構造化データと非構造化データを正しく読み込めたとしても、その中のデータの定義がズレていると、AIの提示する答えも信頼性を失います。

    例えば、営業部門の「売上」と、経理部門の「売上」の定義が異なっていた場合、「今月の売上はいくらですか?」という質問にAIが答えても、その数字が何を意味するのか、利用者は混乱してしまいます。

    この問題を避けるために、全社で「真実の単一ソース」を確立する必要があります。

    具体的には、顧客名、製品コードなどの、会社で最も重要な情報をマスターデータとして一元的に管理し、全システムで共有する一意のIDを割り当てます。

    Difyにおいては、このマスターデータをiPaaSやワークフローツールを活用して、連携する各アプリケーションからDifyへデータを取り込む際の照合と変換のプロセスに組み込みます。

    これにより、AIが「顧客A」を参照した際、どのシステムから情報を取得しても、同じ実体を参照している状態を保証します。

    また、用語・単位の統一する必要があります。「見込み客」の定義、「月次」の締め日など、ビジネス上の主要な用語と単位を標準化し、全ての連携アプリケーションでその標準に従います。

    このように、AIを活用するには「AIが質問の意図を理解し、その質問に対する答えを導き出すために必要な文脈情報と関連性が明確な形でのデータ化」が必須です。

    Difyの機能を使ったデータ収集・連携アーキテクチャ

    データは、大きく分けて「整理されたデータ」(構造化データ)と「文書データ」(非構造化データ)の2種類があることをご理解いただけたと思います。

    では次に、Difyがこれらの異なる性質を持つデータを、どのように取り込み、分析を可能にするのかを解説します。

    非構造化データの取り込み

    社内のマニュアル、過去の議事録、顧客からのメール、製品仕様書といった非構造化データは、DifyのRAG機能を活用することで、AIが参照可能な「知識」として取り込みます。

    RAGとは、生成AIに外部の信情報源を読み込ませ、その情報に基づいて回答を生成させる技術のことです。

    これにより、AIがインターネット上の汎用的な知識ではなく、企業独自のノウハウに基づいた回答を生成することができます。

    まずは、社内のファイルサーバーやSharePoint、Google Driveなどから、PDF、DOCX、TXT、CSVといったドキュメントを収集し、Difyの知識検索ノードのナレッジセクションにアップロードします。

    この際、Difyが自動的にデータを処理し、チャンク分割を行います。

    チャンクが分割された後は、分析精度を高めるため、各ファイルやチャンクに対し、「部門」「プロジェクト名」「最終更新日」などのメタデータを付与します。

    そして、Difyがこれらのドキュメントをベクトル(数値データ)に変換し、ベクトルデータベースに格納します。

    この一連の流れにより、ユーザーが質問をすると、AIはその質問の意図をベクトル化し、ナレッジベースから最も関連性の高いドキュメントのチャンクを検索することで、その情報を基に回答を生成します。

    構造化データの連携

    一方、営業実績、顧客属性、在庫数など、リアルタイム性や計算精度が求められる整理されたデータ(構造化データ)は、前述のRAGのようにファイルを格納するのではなく、Function Calling(関数呼び出し)メカニズムを通じて、外部システムと連携します。

    Function Callingは、LLMが外部ツール(API)を使うための、ツール呼び出しメカニズムです。

    RAGがデータをDify内に格納するのに対し、Function Callingはセキュリティと柔軟性を考慮し、直接接続しません。

    間にAPIゲートウェイや軽量なAPIサーバーを挟み、CRMやERPなどのシステムに対し、データ参照や更新を実行するためのAPIを構築します。

    そして、このAPI仕様を、Difyの「ツール」として事前登録します。

    これにより、ユーザーが「今週のリード獲得数を部署ごとに集計して」と尋ねると、AIは登録されているツールの中から「リード獲得数を取得するAPI」を自律的に判断し、適切なパラメーターを指定してAPIを呼び出します。

    APIはデータベースからデータを取得し、その結果をAIに返します。

    このようにAPI呼び出しを行うことで、常に最新のデータを分析に利用できます。

    また、Difyにデータベースの接続情報を直接持たせず、API経由でアクセス権を制御できるため、セキュリティを確保できるというメリットもあります。

    このようにDifyは、RAG機能によるデータの参照と、Function CallingメカニズムによるAPI連携により、2つの異なるデータを連携させる機能を一つのプラットフォームで統合的に提供します。

    データフローの自動化とDifyへの接続

    非構造化データにせよ、構造化データにせよ、点在するデータはDifyに連携する前に、統合・変換する必要があります。

    この役割を担うのが、iPaaS(Integration Platform as a Service)などのワークフロー自動化ツールです。

    Zapier、Make、Power AutomateなどのiPaaSツールを活用することで、点在する複数のデータソースからデータを抽出し、第1章で定義した「正しい形」(マスターデータと紐づいたクリーンな構造)に変換します。

    そして、整理・統合されたデータを、構造化データの場合は連携用データベースに格納し、Difyの「ツール」から常にアクセスできるようにします。

    非構造化データの場合は、Difyのデータソースを集約するナレッジベースへ、新規・更新ドキュメントを自動でアップロードするように設定します。

    こうすることで、データの抽出から整理・統合、データベースへの格納といったデータフローを自動化することができます。

    実現可能なAI分析のユースケース例

    ここまでで、データを「正しい形」に設計する方法と、Difyによる連携アーキテクチャ構築の流れを見てきました。

    次は、構築した連携基盤を活用し、ビジネスの現場で実現可能な具体的なAI分析のユースケースをご紹介します。

    営業・マーケティング部門:パフォーマンスの分析と戦略策定

    営業・マーケティング部門では、リアルタイムな構造化データと、過去の戦略文書という性質の異なるデータを組み合わせて分析します。

    例えば、営業戦略の立案をサポートするために、ユーザーが「A製品のキャンペーン成功要因と実績の推移を分析して」とDifyに質問したとします。

    これに対しDifyは、まずツールを用いて最新の販売実績データベース(構造化データ)にアクセスし、A製品の売上推移を取得します。

    同時に、ナレッジベースから「キャンペーン計画書」や「営業マニュアル」(非構造化データ)を検索し、戦略文書を検索します。

    AIは、これらの定量的データと戦略文書を照合・推論し、「高い実績は、戦略文書にあったSNS限定プロモーションの実施時期と一致しており、特に若年層へのリーチが成功要因と見られます」といった具体的な示唆を返します。

    また、リードの優先順位付けとリスク評価も可能です。

    ユーザーが「B社が失注に至る可能性を評価し、次に打つべき具体的な施策を提案して」と質問すると、DifyはツールでCRMデータにアクセスしてB社の現状を取得し、ナレッジベースからは類似企業の過去の失注レポートを検索します。

    AIはB社の現状と過去の失注パターンを比較し、「この段階で〇〇資料の提供がない点は失注リスク大。過去事例より、次のアクションとして製品のROIをまとめた〇〇ドキュメントを提供すべきです」とリスク評価と具体的な施策を提案します。

    カスタマーサポート・製品開発部門:ナレッジ活用と問題特定

    この部門では、リアルタイムの顧客行動データと、過去に蓄積されたノウハウ文書を組み合わせ、顧客の真のニーズを把握し、製品改善に繋げます。

    例えば、トラブル解決支援の効率化を図るため、オペレーターが「特定の顧客Aが過去に問い合わせたC製品のトラブル事例と、その解決策を要約して」と質問したとします。

    これに対しDifyは、まずツールを用いてヘルプデスクのデータベースにアクセスし、顧客Aの問い合わせログ(構造化データ)を取得します。同時に、ナレッジベースからはC製品の関連マニュアルと技術者メモ(非構造化データ)を抽出します。

    AIはこれらの情報源を統合し、「顧客A様は過去2回、電源エラーについて問い合わせています。解決策はマニュアルSection 3に記載の通り、設定Aの変更と再起動です」といった、顧客個別の状況に基づいた簡潔な解決手順を提示します。

    また、潜在的な不具合の特定も可能です。

    ユーザーが「ヘルプページへのアクセスが急増した製品と、その直前のリリース変更の関連性を分析して」と分析を依頼すると、Difyはツールを通じてアクセスログデータべースのデータ(構造化データ)を取得し、アクセス急増製品を特定。同時にナレッジベースからは、その製品のリリース履歴や仕様書(非構造化データ)を検索します。

    AIはログの急増データとリリース日を時系列で結びつけ、「アクセス急増は〇月〇日に確認されました。これは、直前の〇月〇日にリリースされた『新機能X』に関するドキュメントが不十分であるため、ユーザーが混乱している可能性があります」といった、問題の仮説を提示します。

    管理部門:業務プロセスの可視化と最適化

    管理部門では、定量的なプロセス管理データと、その背景を記した定性的な文書を連携させ、組織のボトルネックを特定します。

    例えば、業務効率のボトルネック分析として、「先週最も遅延したタスクの担当者と理由を分析して」と指示したとします。

    これに対しDifyは、まずツールを用いてタスク管理SaaSのAPIにアクセスし、遅延したタスクのデータ(構造化データ)を特定。さらに、ナレッジベースからそのタスクに関する進捗報告書や日報(非構造化データ)を検索します。

    AIは遅延の定量データと、報告書内の「仕様変更による手戻りが発生した」といった定性的な記述を結合し、「最も遅延したタスクは〇〇氏担当のAタスクで、報告書から、主に部門間の連携不足が原因であったと分析されます」と、具体的なボトルネックとその背景を特定します。

    Difyを活用して社内に点在するデータをAIで分析してみた

    では実際に、Difyを活用して簡易的なワークフローを構築することで、データ統合と分析の理解を深めていきます。

    本章では、営業担当者の「リード確度評価と推奨アクションの提示」を自動化するワークフローをDifyで構築してみました。

    このフローの目的は、点在する構造化データと非構造化データをAIで統合することです。

    具体的には、ある顧客のIDを入力した後、属性情報取得し、知識検索、データ統合、確度評価、アクション生成という一連の流れが正しく機能するかを検証しました。

    ステップ1:構造化データの取得

    まず、AI分析のトリガーとなる情報(リードID)を入力し、必要なデータソースへのアクセスを開始するノードを構築します。

    本来であれば、DifyはCRMなどの既存システムへ接続し、その都度、業種や従業員規模といった最新のリード属性をリアルタイムで取得します。

    今回は、既存システムが存在しないため、あらかじめ設定したリード属性を次のプロセスへと受け渡す形にしました。

    これにより、ユーザーが入力欄に仮のリードID「L-2025-001」と入力すると、「業種:製造業」「従業員規模:450」「問い合わせ製品:データ分析ソリューション」という構造化データを取得します。

    Difyを活用して社内に点在するデータをAIで分析してみた
    「L-2025-001」という仮のIDを入れることで、「業種:製造業」「従業員規模:450」「問い合わせ製品:データ分析ソリューション」という構造化データが出力されている。

    ステップ 2: 非構造化データの取得

    構造化データを取得したら、次は過去事例やノウハウといった非構造データを同時に取得させます。

    活用するノードは知識検索ノードで、ナレッジベースという箇所に、反映させたい過去事例やノウハウをあらかじめ格納しておきます。こうすることで、AIは推論の根拠として格納されたデータを活用することができます。

    そして、ナレッジベースに事例レポートを格納する際には、「業種:製造業」「従業員規模:400名」といったタグや付帯情報(メタデータ)を付与します。

    Difyを活用して社内に点在するデータをAIで分析してみた
    アップロードしたレポートにメタデータを付与している

    これにより、AIが膨大な文書の中から「製造業かつ従業員規模が400名程度」に合致する事例を見つけ出すことができます。

    ステップ3:データ統合と分析準備

    ステップ2で、構造化データと非構造データという異なるデータを取得しました。

    ステップ3では、この異なるデータを、AIが分析しやすいように整形・統合します。

    そこで、LLMノードを活用し、プロンプトにて「構造化データと非構造化データを解釈し、次のステップのAIがすぐに推論に使えるよう、簡潔で論理的な一つのレポートとしてまとめよ。」と指示します。

    Difyを活用して社内に点在するデータをAIで分析してみた
    プロンプトの画面

    これによりAIは、両方の情報を解釈・結合し、次のステップのための一貫性のある文脈レポートとして整形・出力します。

    ステップ 4:コア推論の実行

    次は、ステップ3で出力された統合レポートを基に、ビジネスインテリジェンスの中核となる判断を下します。

    ここでもLLMノードを活用し、過去の成功・失敗パターンと照合した上で、客観的な「受注確度スコア」と「リスク要因」を判断し、JSON形式で出力してもらいます。

    システムプロンプトは以下の内容にしました。

    あなたは厳密なJSONパーサーです。入力されたレポートを読み込み、リード属性と過去の受注・失注パターンの関連性を厳密に比較せよ。特に、成功事例に一致する要素(例:部門決定、コスト削減ニーズ)と、失注事例に一致する要素(例:カスタム要求、短納期要求)を特定し、その度合いに基づき客観的な受注確度(0-100)を判断せよ。出力は必ずJSON形式とし、他の説明やテキストは一切出力してはならない。

    なお、JSON形式を強制している理由は、後続のノードや外部システムでの処理効率と正確性を保証するためです。

    例えば、AIが「確度スコアは75%です」という文章で回答した場合、後のノードは、この文章から「75」という数字だけを正確に抽出することが困難ですが、JSON形式であれば、正確に「75」という数値を取り出すことができます。

    また、次のステップである最終レポートの提示の際、インプットの形が崩れると後続の全てのノードが停止するため、厳格な構造を持つJSON形式を強制することで、安定性を確保しています。

    つまり、JSON形式での出力は、「AIの推論結果を、人間が読む文章ではなく、機械が正確に処理できるデータ形式に変換する」という目的のために行なっています。

    ステップ5:最終レポートの提示

    最後のステップでは、生成されたJSON形式のコア情報を、営業担当者がすぐに理解できる自然言語のレポートに変換し、提示させます。

    2つのLLMの出力を終了ノードに結合することで、確度とリスクを説明するレポートと、推奨アクションと資料を提示するレポートの2つのレポートを並列で生成してくれます。

    Difyを活用して社内に点在するデータをAIで分析してみた
    最終的に出力された確度とリスクを説明するレポートと、推奨アクションと資料を提示するレポート

    まとめ

    本記事では、社内に点在するデータをAIで分析し、実務に使えるBIとして活用するための具体的な方法を、Difyワークフローの構築を通じて解説しました。

    今回構築したワークフローの成功は、データが点在していても、データを整理してAPI(構造化)とRAG(非構造化)を活用することで、価値ある洞察を生み出せることを示しています。

    しかし、今回構築したものは簡易的なモックに過ぎません。

    さらには、顧客フィードバックや財務システムからのROIデータなど、新たな構造化・非構造化データソースを知識やツールとして追加したり、iPaaSツールによりリードがCRMに登録された瞬間にDifyワークフローが自動で起動する仕組みを構築したり、競合他社の分析やリソース配分の最適化など、より複雑な推論を組み込んだりすることで、AI分析基盤を拡張していくことが可能です。